東証マザーズに上場するメタップス(6172)が15日深夜に発表した決算について、インターネット上の仮想通貨の扱いでの会計処理を巡り投資家の間に戸惑いが広がっている。仮想通貨の会計処理は日本では指針を策定中の段階で、国際会計基準(IFRS)でも具体的な事例が見当たらない。株式市場も仮想通貨の嵐と無縁でいられなくなってきた。
東京株式市場で16日、メタップス株は乱高下した。朝方には一時前日比9%高まで上昇したが、その後は前日終値を同3%下回る場面もあった。
メタップスが15日発表した2017年9~11月期の連結決算(IFRS)は売上高が前年同期と比較して2倍強の61億円、最終損益は300万円の赤字(前年同期は2億9100万円の黒字)だった。ここまでは一般的な企業の決算と変わらない。
議論が分かれるのは、メタップスが保有する複数の仮想通貨をどう評価するかだ。同社は韓国で、現地子会社が仮想通貨技術を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)を17年9~10月に実施した。調達した資金は円やドルではなく仮想通貨のイーサリアム。メタップスの決算資料によると、ICOにより時価で10億円相当のイーサリアムを受領し、直近でその価値は5倍になった。
一般的な資金調達であれば、手にした現金は同額の純資産の増加につながる。ただ、現時点でメタップスはICOで調達した対価の全額を負債(前受け金)として計上した。
ICOを含めた仮想通貨の会計処理は記録を遡っても簡単には前例が見当たらない。メタップスは前日1月15日深夜に、17年9~11月期の決算短信こそ提出したものの、決算をチェックする監査法人の意見が必要な同期間の四半期報告書は来月2月15日まで提出期限を延長した。同社も「仮想通貨に関する一連の会計処理はIFRSで前例がない」(経営企画部)と説明しており、担当する監査法人も戸惑っているようだ。
メタップスはICOに伴い「トークン」と呼ぶデジタル権利証「プラスコイン」も発行している。メタップスは自社保有分のプラスコインについては、現時点で簿価0円として無形資産や棚卸し資産に計上した。
日本企業の会計基準を策定する企業会計基準委員会(ASBJ)は17年12月5日に企業が仮想通貨を取り扱う際の指針となる草案を発表した。草案によると、仮想通貨は取引が活発な市場が存在する場合、期末において時価評価して簿価との差額を当期の損益として反映する。
メタップスをこの会計処理に当てはめてイーサリアムが5倍以上になった時価で評価した場合、調達時に10億円相当だった評価額は約50億円になる。自社保有分のプラスコインについては「取引所で実際に取引されている時価のあるもの」(経営企画部)のため、現時点で簿価0円としている評価額は期末時点で時価評価した全額になる。
もっとも、仮想通貨は株や国債といった既存市場と比べ、先行きは極めて不透明だ。韓国では仮想通貨の取引自体を禁止する法案が取り沙汰されている。メタップスも韓国が法律で仮想通貨取引を禁止した場合は仮想通貨を返金する可能性があると認めている。前例のない仮想通貨の決算処理を巡る動向は今年、株式市場でも投資家の大きな話題になりそうだ。
【日経QUICKニュース(NQN) 片野哲也】
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