時価総額がビットコインに次ぐ暗号資産(仮想通貨)イーサリアムのスポット(現物)で運用するETF(上場投資信託)が大きく前進した。米証券取引委員会(SEC)は23日、ニューヨーク証券取引所などでの上場を認めるルール変更を発表。米運用大手ブラックロックやフィデリティなど10社近くが申請、SECは個別に承認の可否を判断していく。早ければ今夏にも取引が始まる見通しだ。ビットコイン現物ETF取引開始から半年足らず。イーサリアムETFの早期承認は難しいと業界で考えられていた。SECの対応はサプライズ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、SECが仮想通貨に対する窓を広げ、メインストリームの投資家が株式や一般的なミューチュアル・ファンド(投資信託)のように簡単に売買できるようになると報じた。
イーサリアムはSEC発表の数日前に突然動いた。3000ドルを下回る水準で取引されていたが、連日急伸。マーケットウォッチによると、1週間の上昇率は28%に達した。「イーサリアム現物ETFの承認確率が25%から75%に上昇」とのブルームバーグ通信のセイファート記者の投稿がきっかけの1つ。SNS(交流サイト)Xやテレグラムでイーサリアムを話題にした投稿が急増。期待は高まり、相場押し上げに寄与した。
2022年11月の交換所大手FTXトレーディングの破綻で、仮想通貨をめぐり米国全体が否定的ムードに包まれた。民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員がネガティブ・キャンペーンを展開。SECのゲンスラー委員長が仮想通貨を痛烈批判した。空気は2023年8月に一変。ビットコイン・トラストのETFへの転換の是非をめぐる裁判で、グレースケール・インベストメンツがSECに勝利。ビットコイン現物ETFの承認につながった。連邦議会下院は今月22日、デジタル資産の管轄権をSECに代わり米商品先物取引委員会(CFTC)に規定するFIT21(21世紀金融イノベーションおよびテクノロジー)法案を可決。共和党のほぼ全員が支持、ペロシ元下院議長を含む民主党71人も賛成に回った。マーケットウォッチは、デジタル資産に対する首都ワシントンの態度が変わったと解説した。
11月5日。米大統領選および下院の全議席と上院の3分の1の議席を争う選挙が実施される。仮想通貨を取引している人の多くはインフレに苦しむ若い有権者だ。民主党も無視できない。共和党は仮想通貨推しを強化。共和党のルミス上院議員は、「議会に親仮想通貨グループを結成する」とXに投稿した。「仮想通貨を保有する米国人を支持する」とのトランプ前大統領の選挙演説に会場が沸くビデオを添付したビットコイン・マガジンのX投稿を24時間で260万人が閲覧。AP通信は、トランプ氏が仮想通貨による寄付受け入れを表明したと伝えた。
ファクトセットによると、ビットコイン現物ETFへの純流入額は120億ドル(約1兆8800億円)を超えた。大成功とされている。SECへの提出書類で、公的年金を運用するウィスコンシン州投資委員会が9900万ドル(約155億円)相当のブラックロックのビットコイン現物ETFに投資したことが明らかになった。ブラックロックは世界の公的ファンドとビットコインETF投資をめぐり協議中と幅広く伝えられた。香港取引所に続き、28日にビットコインとイーサリアムの上場投資商品(ETP)がロンドン証券取引所に上場する。CNBCは、長期保有資産とされるビットコインに対し、イーサリアムは技術開発初期への投資と受け止める傾向があり、いずれも「優良仮想通貨」のようになったと報じた。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。