「チェンジ(変革)」で知られるオバマ元米大統領。民主党のハリス大統領候補の劣勢を受け、状況を「チェンジしよう」と精力的に訴えたが実らなかった。生活費の高騰で、有権者はハリス氏の挽回ではなく、経済の変革を求めた。暗号資産(仮想通貨)業界とビットコイン投資家は民主党政権から共和党のトランプ氏への「チェンジ」を夢みていた。
「トランプトレード」で株式市場に巨額資金が流入。米長期金利は上昇。ドルは買われ、金利のつかない金(ゴールド)は売られた。ビットコインは第2次トランプ政権の誕生で最も大きい反応をみせた。ウォール・ストリート・ジャーナルは14日、「ビットコイン爆上げ」との見出しで、投資家の熱狂を反映してトランプ氏勝利後に最高値を連日更新したと詳しく報じた。連邦議会選で暗号資産関連のスーパーPAC(政治活動委員会)が支援した数十人の勝利も勢いを後押ししたとしている。暗号資産市場におけるアニマルスピリッツ(野心的な意欲)の復活は数年前には想像もつかなかったと解説した。
2022年の米FTXトレーディングの破綻でネガティブムード一色だった仮想通貨市場。ビットコイン現物ETF(上場投資信託)の承認をきっかけに息を吹き返した。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ブラックロックやフィデリティなど11社のETFの資産総額は940億ドル(約14兆5000億円)近くに達した。安心して取引できる環境は整い、公的資金の運用者を含めた幅広い機関投資家が購入を開始。「トランプトレード」を象徴する形で一段高になり、欧米の主要メディアのビットコイン報道は選挙後に急増した。
さらなる上昇を後押しするのは、「アンチ仮想通貨」で知られる証券取引委員会(SEC)のトップの「チェンジ」と業界でささやかれていたが、現実味を帯びてきた。「ゲンスラーSEC委員長を解任する」と約束したトランプ氏が勝利、ゲンスラー氏は14日に辞任を明確に示唆するメッセージを発した。投資家層の一段の広がりも仮想通貨の追い風になりそうだ。ワシントン・ポストは16日、「普通の人」がビットコインの購入を望んでいると伝えた。ビットコインの選挙後の大幅上昇で仮想通貨が「メインストリーム市場」に近づき、「普通の人」の参入を容易にしたとしている。
ビットコインに加え、時価総額が2番目に大きいイーサリアムをはじめ幅広い仮想通貨も急上昇。トランプ氏勝利の立役者である実業家のイーロン・マスク氏の寄与で、ミーム(はやり)トークンのDOGE(ドージ)コインは急騰した。政府効率化省(DOGE)と呼ぶ組織のトップを託されたマスク氏は、ドージコインのシンボルである犬の顔を描いて新組織で構造改革を進めるとXの投稿で表明。過去にも言及したが、政府効率化省のイニシャルを重ねたことで注目度を高めた。
「米国を暗号資産の首都」にすると公約したトランプ次期大統領。石油のようにビットコインの国家準備備蓄を進めるとも主張したが、具体策はまだみえない。どの資産クラスよりもブル(強気)が多いようにみえるが、仮想通貨のボラティリティーの高さを警戒する投資家も依然少なくない。金に匹敵するメインストリーム資産になるか。今後4年以内にビットコインの「チェンジ」の答えが出そうだ。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。