インターネット上の仮想通貨ビットコインの下値不安がくすぶっている。欧米株安に一服感があり、前週のようなリスク回避の売りは見られなくなったため、相場は直近安値からはだいぶ戻した。半面、交換業者を巡るトラブルなどを嫌気してか、新たに流入してくるマネーの規模は細っている。既存の投資家がいつ換金売りに傾いてもおかしくないとの懸念は解けないままだ。
ビットコインの対米ドル相場は日本時間6日に約3カ月ぶりに1ビットコイン=6000ドルを下回った後、9000ドル前後まで持ち直したが、ここにきて動きが鈍くなってきた。14日9時30分時点では8600ドル台で推移している。買い手は下落時に売り持ちを増やしたディーラーの反対取引が中心で、商いは特に膨らんでいない。
情報サイトのコインマーケットキャップによると、14日6時前の時点で直近24時間の仮想通貨全体の売買高は173億ドル程度と、最も活況だった1月5日の700億ドル程度の4分の1になった。前週は何度か300億ドル台を回復したが、キープできなかった。
日本の仮想通貨交換業者コインチェックにおける仮想通貨NEM(ネム)の巨額流出事件に続き、イタリアの同業ビットグレイルでも通貨Nano(ナノ)の盗難が発覚。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによれば流出額はドル換算で1億7000万ドルに達した。ビットグレイルはツイッターで「顧客への全額返還はできない」と早々にさじを投げ、市場心理を冷やした。あまりにも早い白旗宣言に対し「ほんとうに盗まれたのか」と疑問の声が上がったほどだ。
コインチェックは13日、顧客が日本円でプールしているお金の出金を再開したものの、仮想通貨建て資産は留め置いたままだ。「前週にかけての相場急落を見ているだけに、いざ出金再開となれば換金売りが広がるのではないか」(国内証券のセールスディーラー)との警戒感が強まっている。ネム流出問題が起きた当初「出金を速やかに再開できれば市場全体のダメージは少ない」(ロンドンに拠点を置くヘッジファンド、ゼニファス・キャピタルの鈴木涼介氏)と楽観していた大口投資家の視線も厳しくなった。
仮想通貨のデリバティブ(発生商品)取引のプラットフォームを提供するレッジャーXではビットコインのプット(売る権利)オプションに高値が付きやすくなっている。今月12日は3月30日を期日とする権利行使価格1万ドルのプットが1ビットコイン当たり2520ドルで成立した。コール(買う権利)は前日13日に成立した行使価格1万5000ドルのオプションが1ビットコイン当たり1800ドル程度だったが、期日は12月28日とだいぶ先の話だ。
昨年12月21日に初めて取引が成立し、話題となった行使価格5万ドルのコールオプションは今月13日、1ビットコイン当たり276ドルのコストで取引された。コストは昨年12月時点の3600ドル前後の1割にも満たない。「ビットコインは18年も上昇するかもしれないが、5万ドルは当たればもうけものの世界」――。昨年末に先高一辺倒だった相場観が、わずか2カ月でいかに劇的に変わったかを象徴している。
【日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 今 晶】
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