円相場が節目の1ドル=110円を探ろうとしている。米長期金利の上昇ににわかに焦点が当たり、欧米ヘッジファンドなど投機筋の間で円売り・ドル買いの戦略が増えてきた。この流れは続くのか。金融市場では、生命保険会社などじっくり利息収入を積みあげていくマネーがどの程度追随できるかにかかっているとの予想が多い。
ファンド勢は顧客からのコンスタントな収益確保を求められるため、取引の回転期間はおのずと短くなる。円の売りと買いを小刻みに繰り返さざるを得ず、投機主導の動きだけでは相場の基調は定まりづらい。
巨額の経常黒字国である日本には外債運用などで受け取った金利が絶えず還流し、国内輸出企業の円買いも途切れずに入る。そんななかで円安基調が定着するには国内企業による外国企業のM&A(合併・買収)や国内の生保、年金基金、投資信託といった数年単位で円を売り持ちにできる大口投資家の存在が不可欠だ。
M&Aについてはこのところ増加傾向で、円安効果は着実にあらわれている。足元では武田薬品工業が目指すアイルランド製薬大手シャイアーの買収を巡って「もし実現すれば1兆~2兆円程度の円売り・英ポンド買いなどが出るのではないか」(DZHフィナンシャルリサーチの和田仁志常務執行役員)との指摘がある。
一方、生保や投信の対外運用では、先物の円買い・ドル売りなどを通じた為替差損回避(ヘッジ)のコストが高止まりしており、「ドル建て運用をするならヘッジなし」との雰囲気が濃い。大手生保各社が26日までに発表した2018年度の運用計画でも「保有米国債のヘッジを段階的に外す」(朝日生命)、「米ドル建てを中心にヘッジを付けない外債(オープン外債)の残高を増やす」(日本生命)との声が出ていた。
もっとも、生保のように運用リスクを厳しく管理している機関投資家は、簡単には円売りを膨らませられない。ポイントはボラティリティー(変動率)の安定だ。思わぬ円高で為替差損をこうむる公算が小さいと判断すれば、長期運用の利息重視派は安心して円売りに傾ける。
将来の為替レートを予測する通貨オプション市場で、円相場の予想変動率は日本時間27日11時時点で年率6.7~7.1%程度だった。2月に付けた今年ここまでのピークの10%台を大幅に下回る。月間の想定値幅は1円に満たない計算で「今はまとまった規模で円を売りやすい状況」(国内銀行の為替ディーラー)といえる。
日銀はきょうまで開いた金融政策決定会合で現行の長短金利操作付きの量的・質的金融緩和政策の維持を決めた。国内の低金利環境は当分変わりそうにない。低水準のボラティリティーのもとで円売りが進む可能性はいくぶん高まってきた。
【日経QUICKニュース(NQN)編集委員 今 晶】
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