外国為替市場で再び円相場が下落基調にある。9日の海外市場では1ドル=109円80銭台と節目の110円を改めて探った。今週前半は過度の米金利上昇や新興国経済への警戒感などからリスク回避でいったん円を買う動きが出ていたが、リクルートホールディングスによる米社買収の報道をきっかけに、相場のモメンタム(勢い)を重視するコンピューターの「アルゴリズム取引」が円売り・ドル買いに傾いている。
リクルートが米求人関連サイト運営のグラスドア買収を発表したのは日本時間の9日10時ごろ。ニュース自体は突発的で、アルゴリズムがすぐ反応できたわけではない。反応したのは自らの経験と勘で勝負する生身のトレーダーだったが、米国のイラン核合意離脱などを背景に市場の様子見気分が強く、参加者が少なくなっていた局面だっただけに円安方向への振れ幅は大きくなった。グラスドアの買収額は12億ドル(約1300億円)。日本企業が現金で米国企業を買収するディールは、外為市場では円を売ってドルを買う取引につながる。
折しも米国債の時間外取引で、米長期金利の指標となる10年債の利回りがじりじりと上昇していた。これが米金利上昇にシンプルに円売り・ドル買いで応じるタイプのアルゴ系投資家を刺激し、円安モメンタムの醸成をアシストしたようだ。
ふだんは相場の流れに逆らう「逆張り」で臨む外為証拠金(FX)投資家も、アルゴリズムを駆使するトレーダーを中心に9日はかなりの割合で「順張り」の円売りを進めた。FX大手のオアンダによると日本時間10日7時時点でも円売りと円買いの注文はほぼ拮抗し、全体の持ち高は「中立」に近い。FX勢の逆張りの円買いがあまり入らないと、円の下値余地は広がりやすくなる。
オアンダのデータでは円の対ドル取引で9日中に収益をあげたFXディーラー上位100名のうち、7割弱が円売りを先行させていた。対して円の買い手は総じて振るわなかった。お金の余裕は円安・ドル高派のほうがかなりあると受け取れる。
今後の米金利上昇や中東情勢の緊迫が米景気や新興国に打撃を与え、円高をもたらす可能性は消えていない。一方、為替相場は勢いに任せて動くケースがかなり多い。モメンタム重視のアルゴ勢の復活は円安・ドル高の持続性をいくぶん意識させる。
【日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 今 晶】
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