外国為替市場でユーロの下落がなかなか止まらない。21日の東京市場では対ドルで一時1ユーロ=1.1744ドル近辺と昨年12月以来、5カ月ぶりの安値を付けた。米金利の先高観からドル高圧力がかかりやすくなっているところにユーロ独自の悪材料が加わり、市場ではユーロ売り戦略をとる投資家が増えている。
ユーロ固有の懸念材料は2つある。欧州中央銀行(ECB)の緩和縮小観測の後退とイタリア政局の先行き不透明感だ。
欧州連合(EU)諸国の経済指標が低調ななか、ECBが緩和縮小のペースを速めるとの観測は鳴りを潜めた。利上げを急ぐ米国との差は鮮明になっている。市場では「7月のECB理事会まではユーロ安が続く」との見方も聞こえ始めた。
EU統計局が2日に発表した1~3月期のユーロ圏域内総生産(GDP)は、年率換算した実質成長率が前期比1.7%増と、17年10~12月期から大幅に縮まった。18年初の大雪など一過性の要因との受け止めはあるものの、市場では景気への疑念がくすぶり続けている。
ECBは9月末に資産買い入れの終了を予定する。その先はまだ「未定」だ。一方、米国では米連邦準備理事会(FRB)が利上げ路線を維持している。米長期金利が足元で3%を超えてきたのに対し、ドイツ10年債は0.5%台にとどまる。このまま米欧の金利差が拡大すれば、ユーロは一段安も起こりうる。
イタリアではポピュリズム(大衆迎合主義)政党「五つ星運動」と極右「同盟」が18日、連立政権樹立に向けた政策で合意した。政策には大規模な減税や社会保障の拡充などの案が含まれるだけでなく、EUに懐疑的な立場をとっている。イタリアとEUとの関係が冷え込む可能性を意識せざるを得ない状況だ。クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司外国為替部長は「政権がどのような政策を今後実施するのか見通すまでは、ユーロを買いづらい」と話す。
ユーロ安はどこまで続くのか。市場では7月のECB理事会が焦点になるとの指摘が出ている。第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは「7月までには経済指標は回復するだろう」と予想したうえで「9月の資産買い入れ停止に向け、7月の理事会では正常化の方針を示すはずだ」とみている。
イタリア政治の混迷が早く収拾に向かうとのシナリオもある。ポピュリズム政党は国民の支持を得られなければ存在意義を失う。イデオロギー色は薄い。もしEUとの対立長期化で人心が離れてしまうようだと、あっさりと方向転換を図る可能性が高い。市場では「ユーロ安が続くにせよ止まるにせよここ2カ月ほどが勝負」との声が多い。
【日経QUICKニュース(NQN) 荒木望】
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