外国為替市場で欧州通貨の下落が際立っている。ここ1カ月ほどのスウェーデンクローナやスイスフランの対米ドルの下落率は新興国通貨のトルコリラやメキシコペソ並みだ。英ポンドや単一通貨ユーロの下げもきつい。欧州中央銀行(ECB)や英イングランド銀行(中央銀行)が金融政策の正常化に動くとの観測が後退し、利上げを進める米国との違いにあらためて焦点が当たった面が大きい。
3月26日から5月7日までの下落率を計算すると、欧州ではスウェーデンクローナが約7.9%と突出し、スイスフランの6.1%が続く。トルコリラは約7.6%、メキシコペソは6.1%だった。このところ欧州ではさえない内容の経済指標が相次いでおり、「景気のピークアウト感が強まり、欧州通貨の敬遠ムードが出ている」(みずほ銀行国際為替部の佐藤大次長)という。
しかもスイスでは中央銀行が金融緩和政策を維持する構えを崩していない。必要に応じてスイスフラン売りの為替介入に踏み切る姿勢も保っている。スウェーデン中銀は4月26日発表の政策声明で利上げの時期を後ずれさせる意向を示した。投機筋は対米ドルでクローナやフランを売りの対象にしやすくなっている。
また、ポンドは4月中旬にかけ、早期の英利上げ観測をテコに急伸した後、英中銀総裁の発言をきっかけに地合いが一変。ここ2週間ほどずるずると値を下げている。
ユーロは期待先行で買われてきた反動がある。ECBはすでに毎月の国債購入額を減額を始めている。市場では2018年中に量的金融緩和の段階的縮小(テーパリング)を終え、19年には利上げを決めるとの予想が多かったが、足元の景気指標を見るかぎり一筋縄ではいきそうにない。第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは「市場はテーパリングの判断時期の後ずればかりか、量的緩和の長期化も視野に入れ始めているのではないか」と話す。ユーロ売りはECBがすんなりと政策を正常化できるか疑問を抱き始めていることも映している。
欧州通貨は対円相場でもじりじりと下げ、ユーロは8日の東京市場で一時1ユーロ=129円83銭近辺と3月26日以来の安値を付けた。巨額の対外債権国である日本の円はマネー収縮の局面で強い。
トランプ米大統領は米東部時間8日にも、欧米など6カ国とイランが結んだ核合意から離れるか否かを判断するとしている。仮に残留となれば中東リスクはいったん後退するが、情勢緊迫への懸念は簡単には消えないだろう。米金利上昇がドルへの資金回帰を促し、新興国など経済基盤が脆弱な国の通貨の売りを促す構図もすぐには変わりそうにない。
市場には「しばらくはドルも買われ、円も買われる」(国内銀行の為替ディーラー)との声が多い。その裏返しで欧州通貨に下落圧力がかかり続けることになりそうだ。
【日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢】
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