フィデリティ投信が今月22日に設定した投資信託「フィデリティ・米国株式ファンド」が順調に資金を集めている。ファンドの売りは、米国の旗艦ファンド「フィデリティ・コントラ・ファンド」で運用担当者を務めるウィル・ダノフ氏が、コントラと同じ投資哲学や戦略に基づいて運用することだ。ダノフ氏は伝説のファンドマネジャーと称されるピーター・リンチ氏に師事したとあって、これまでコントラに投資できなかった日本勢の関心は高いようだ。
フィデリティ・米国株式ファンドは決算頻度や為替ヘッジの有無により4つのコースに分かれる。4コースを合わせた純資産総額は設定初日に200億円を超え、設定から1週間たった28日時点では278億円に達した。
「本家」コントラ・ファンドの2月末時点の純資産残高は14兆円程度だった。米国で販売されるアクティブ型の投信として3位、単独の運用担当者が手掛けるファンドとしては米国最大の純資産残高を誇り、50年以上の運用実績がある。
ピーター・リンチ氏の投資哲学を受け継ぐダノフ氏がコントラ・ファンドの運用を担い始めた1990年以降、ファンドの基準価額は約34倍になった。同期間のS&P500種株価指数の伸びが約16倍だったのと比べるとパフォーマンスの良さは際立つ。師匠の教えを守り、経営者との面談など徹底的な企業取材に基づく「ボトムアップ・アプローチ」の投資手法にこだわる。
コントラ・ファンドは350近い銘柄を組み入れている。そのうち上位10銘柄で4割弱、上位40銘柄で7割程度を構成する。残り3割ほどを300銘柄に広く分散し「新しいビジネスや世の中を変える可能性をもつ企業の投資機会を逃さず、慎重に、いろいろな銘柄に投資している」(藤田薫シニア・プロダクト・ストラテジスト)。コントラではかつて、フェイスブックやグーグルなどに起業後の早い段階から目を付け、投資をしてきた。
コントラのノウハウを生かしたファンドは隣国カナダでも販売している。17年1月に運用を始め、18年4月末には純資産残高が2000億円程度まで積み上がってきた。北米以外でコントラ系のファンドが売られるのは初めてだ。
日本やカナダでは業界団体などが決めたルールに従わなければならないため、コントラの完全なコピーファンドは作れない。コントラは米以外の国の株式にも制限なく投資できるが、日本版は2割未満に限られる。未公開株組み入れも、日本版では日々気配値が確認できる「OTCマーケッツ」で取引されるものだけが対象になる。コントラで採用する350近い銘柄はそのままでは組み入れられない。カナダ版も240銘柄程度でポートフォリオを構築しているという。
金融・資本市場は変化が激しい。戦線を広げれば広げるほどリスク管理は難しくなり、しかも国ごとに投資制約が異なる中で「ウィル・ダノフ氏の目利き」がどこまで生かせるかは未知数だ。その点に投資家は注意が必要だろう。
販売会社は今のところ野村証券のみ。日本での運用姿勢について藤田氏は「テーマは追わず、運用担当者が5年後10年後の世の中の変化を見据えて銘柄をしっかりと入れ替えるアクティブの王道だ。中長期的な資産形成のツールと位置づけてもらい、ゆくゆくは旗艦ファンドに育ってほしい」と意気込んでいる。
【日経QUICKニュース(NQN ) 片岡奈美】
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