資生堂(4911)の株価上昇が続いている。1日は連日で上場来高値を更新し、昨年末から水準を6割ほど切り上げた。いわゆる「インバウンド関連」とされる資生堂だが、顧客は訪日客だけにとどまらない。高い技術力を武器に世界を席巻するとの期待が高まっている。
「日本のFANGは資生堂です」。ある外国証券の株式営業担当者は、有望銘柄を問う投資家にこう答えている。FANGは、言うまでもなく、米IT(情報技術)企業のフェイスブックとアマゾン・ドット・コム、ネットフリックス、グーグル(アルファベット)だが、資生堂は同様に独創的な技術でライバルを圧倒する存在になり得ると強調する。
強気の背景にあるのが、1月に米社から取得した「セカンド・スキン」と呼ばれる人工皮膚形成技術だ。従来のしわ取りクリームは日々の継続的な使用で初めて効果が表れたが、化合物と乳液を重ねて塗ることで人工皮膚を瞬時に作り出す。すぐに効果が出るのが特徴で、資生堂はスキンケアや日焼け止めに応用できるよう研究を進める。
JPモルガン証券の角田律子シニアアナリストは「定量的に業績予想へ織り込めるほどの情報はないが、実現すれば美容市場に新たな領域が確立される」と分析。「人工皮膚の市場規模は1兆~4兆円となる可能性を秘める」といい、年間売上高が1兆円程度の資生堂にとっては肥沃な市場となる。JPモルガンは基礎技術を持つ資生堂の優位性を評価し、5月30日に目標株価を8000円から1万円へ引き上げた。
有望銘柄の発掘に定評がある海外投資家も動き出した。QUICK・ファクトセットによると、純資産総額が約14兆円で米国最大級の投資信託「フィデリティ・コントラ・ファンド」は資生堂株を1月の42万株から4月末に122万株まで買い増した。同投信は著名投資家のピーター・リンチの哲学を受け継ぎ、フェイスブックなど有力銘柄に早くから投資していたことでも知られる。「海外の長期投資家が成長期待を手掛かりに株高を演出している」(みずほ証券の佐藤和佳子シニアアナリスト)という。
資生堂の今期予想を基にしたPER(株価収益率)は60倍超と、同業他社を大きく上回る。投資尺度の面では「割安」とは言い難いが、国内運用会社で成長株ファンドを運用するある担当者は「中長期視点で投資できる銘柄」と分析する。FANGのように唯一無二の存在になり得るのか。投資家の視線はやや遠い将来に注がれている。
【日経QUICKニュース(NQN ) 田中俊行】
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