インド自動車大手のタタ自動車の株価が今週に入り急ピッチで下落している。28日には一時262.50ルピーと、およそ5年ぶりの安値に沈んだ。インド国内の自動車販売は好調なのに株が売り込まれるのはなぜか。傘下の英高級車メーカー、ジャガー・ランドローバー(JLR)が米欧間の貿易摩擦に巻き込まれ収益が悪化するとの懸念が広がっているためだ。
タタ株の28日終値は263.90ルピー。29日は反発したものの、25~28日の4日続落で計14%下落。年初来の下落率は4割近くに達している。
足元の急落のきっかけは、米国と欧州連合(EU)の通商摩擦がにわかに先鋭化してきたことだ。単価の高い車を扱うJLRは子会社ながらタタの連結売上高の約8割を占める。タタの業績はJLR次第といっても過言ではない。
トランプ米大統領は22日「EUが米国に課している関税や貿易障壁をすぐに取り除かなければ、米国への輸入車すべてに20%の関税をかける」とツイッターに投稿した。この発言は米国の鉄鋼・アルミニウム輸入制限への対抗措置として、EUが同日から鉄鋼製品やオートバイなど米国製品に報復関税を発動したことに反応したものだ。
JLRは英国で車を生産し、売上高の2割が米国向けだ。対米輸出に高率の関税がかかると大打撃だ。関税分を販売価格に転嫁して売れ行きが鈍るか、JLR自身が負担して採算が悪化するかの二者択一になる。
長期的な業績見込みの悪化も、売りを誘っている。JLRは25日にロンドンで開いたアナリスト説明会で、2024年までの販売台数の伸び率が年3%以下にとどまるとの見通しを示した。アナリストの多くは、「米国の関税引き上げを考慮していない数字にしては弱気」と受けとめたようだ。
QUICK・ファクトセットによると、JLRの説明会後、28日までにタタ自動車株をカバーしている金融機関36社のうち26社が収益予想を下方修正した。貿易摩擦を嫌った短期筋の売りに加え、業績トレンドを重視する機関投資家の売りも断続的に出ているとみられ、タタ株が早期に持ち直すのは難しそうだ。
【日経QUICKニュース(NQN)シンガポール=依田翼】