外国為替市場でリスクをとって円を売り、ドルなどの買い持ち高を増やす戦略が低迷している。欧州の移民問題の進展など外貨を買って円を売る材料は出てきたが、投資家が最も警戒する米通商問題については先行きがまったく見通せない。このため、じっくりと利息収入を積みあげる「円キャリー取引」には適さない市場環境との受け止めが広がる。
円キャリー取引はリスクに見合った内外金利の格差とともに為替相場の安定が不可欠だ。金利差については日本の緩和長期化が既定路線の一方で、米国の利上げは当分続く見通しから少なくとも対ドルではキャリー取引ができる条件を満たす。米短期金利の指標となるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は現在1.75~2.00%だ。だが、米中などの貿易摩擦への懸念で為替レートは円高・ドル安に振れる可能性がまだ拭えない。相場の安定が見込めないため、キャリー取引をためらう投資家が多い。
将来の為替相場を予測する通貨オプション市場で、円の対ドル相場の予想変動率(IV)は1カ月物が2日時点で7.5%程度。前週末に7.0%前後まで低下した後、再び上昇している。国内輸出企業の取引が多い円のオプション市場でのIV上昇は、市場参加者の間で円高予想が強いことを示す。
円を売るタイミングを間違えれば、利息収入が円高の為替差損ですぐに吹き飛びかねない。SMBC日興証券の野地慎チーフ為替・外債ストラテジストは「2018年はトランプ米大統領の政策の不確実性がIVを高止まりさせるとみられ、安易に円を売り持ちにできない。キャリー取引には向かない時期」と指摘する。
日銀が2日朝方に発表した6月調査の企業短期経済観測調査(短観)で、大手の輸出企業を含む大企業製造業の3カ月先の業況判断は前回調査から横ばいだった。金融市場の一部には悪化回避に驚きもあったが「貿易摩擦の国内景況感への織り込みはこれからだろう」(浜銀総合研究所の北田英治調査部長)との慎重な声は少なくない。IVの上昇傾向と矛盾しない市場参加者の受け止めだろう。
2日午前の東京市場で円相場は一時1ドル=111円07銭近辺と5月22日以来の安値を付けた。輸入企業の円売りがけん引役で、長期的な円安予想をもとにした投資家の円売り注文は確認されていない。短期的な視点でも「週内に円は下げても111円台半ばまで」(三井住友銀行の青木幹典為替トレーディンググループ長)との予想がある。円売りに傾けない投資家は多い。
【日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 今 晶】
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