日銀の金融政策の「柔軟化」「調整」を示唆する報道をきっかけにマーケットが一気に動き始めた。JPXによると、国債先物は先週末の夜間取引から23日の日中取引までの売買代金はおよそ8兆円で最近の平均(約2兆円)の4倍に達したという。投資家が慌てふためいた様子がよくわかるデータだ。
もちろん報道自体は観測の域を出ない。31日に公表される日銀の金融政策決定会合の声明文やその後の黒田東彦総裁の会見を見極めたい市場関係者は多いだろう。様子見ムードが強まると短期筋の仕掛け的な売買が交錯しやすい。月末に向け国内金利には上昇圧力がかかりやすく円も買われる地合いが続きそうだ。
株式市場の関心は、ずばりETFに関する2つ。ETF買い入れ策が調整の対象となった場合、①買い入れペースを減速させるのか、②購入対象のETFを変更するのか、だろう。
①については国債買い入れ同様、メドとなる数値を掲げつつも実際には届かないペースへ落とすことがあり得る。いわゆる、ステルス・テーパリングだ。ただ、政治日程を見ると日銀は額を減らすことができるのだろうか。秋の自民党総裁選から来年4月には統一地方選、夏には参院選、そして秋には消費増税と1年にわたって政治イベントが目白押しだ。安倍晋三首相にとって株安というマイナス材料を覚悟して舵を切れるのかという、疑問が残る。
②については可能性がありそうだ。ETF購入では、指数内で高いウエートの銘柄が結果的に買われやすい点が問題視されている。顕著なのが日経平均型。ファーストリテイリング(9983)が23日に急落したのは、日銀が日経平均型のETF購入を縮小・停止するリスクをマネーが敏感に嗅ぎ取ったからではないのか。
そうなると、浮上するのがESG型のETF購入だ。既に日銀は今年から女性の活躍を焦点にしたETFを購入している。また年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も既に投資を開始するなど「国策」でもあり、日銀にとっては買いやすいタイプのETFと言える。仮に6兆円のペースをそれほど落とさずに購入を続けるとなると、偏り・ゆがみの是正も求められる。「ESG投資における日銀のリーダーシップが発揮されれば、国内外のESG投資家が日本に注目するだろう」(UBS・ウェルスマネジメントのハウスビュー5月号)との指摘もある。日銀の本格的なESG買いの可能性は頭の片隅に残しておきたい。またそれは日経平均にとっては当面、逆風が吹き続けそうだということになる。(岩切清司)
※QUICKデリバティブズコメントで配信したニュースを再編集した記事です。トレーダーやディーラー、運用者の方々へ日経平均先物・オプション、債券現物、先物を中心に旬のマーケット情報をお伝えしています。ライター独自の分析に加え、証券会社や機関投資家など運用・調査部門への独自のネットワークから情報を収集し、ご提供しています。