トルコやアルゼンチン、インドネシア、インドなど新興国の通貨が相次いで下落するなか、国際金融市場では次に急落の憂き目に遭う新興国通貨の候補探しが始まっている。野村インターナショナルのファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)分析によると、今後1年間で通貨暴落のリスクが最も大きいのは財政基盤の脆弱なスリランカだという。
野村は10日付のリポート「通貨危機早期警戒指標・ダモクレスの紹介」で、短期対外債務や外貨準備、資本流入額、実質短期金利、財政・経常収支などのデータをもとに、新興30カ国・地域について通貨危機が発生するリスクを調べた。ダモクレスとは一触即発の危機を示す古代ギリシアの故事「ダモクレスの剣」で知られる人物のことだ。リポートによると、発生可能性を示すスコアが175と最も高かったのがスリランカだ。
スコアは100を上回ると「通貨危機のおそれにさらされている」、150を上回ると「危機がいつ起きてもおかしくない」と定義される。スリランカに次ぐのは南アフリカ共和国(143)、アルゼンチン(140)、パキスタン(136)、エジプト(111)、トルコ(104)といった国々。いずれも対外債務が大きく、通貨安が債務負担を膨張させる悪循環に陥りやすい。南アやアルゼンチン、トルコなどはすでに通貨暴落が世界的話題になっているが、それ以外の国にもリスクが潜んでいるわけだ。
一方、インド(25)やインドネシア(0)、フィリピン(0)のスコアは低い。通貨は足元でいずれも直近の安値圏にあるが、野村の見立てでは今後危機的な急落に発展する兆候はないという。
スコアが最も高かったスリランカ。実際、通貨ルピーは下げが目立ってきている。スリランカ中央銀行によると6日に対米ドルで過去最安値となる1米ドル=162.0424ルピーを付け、昨年末に比べて6%下落した。
2017年末のスリランカの政府債務残高(暫定値)は対国内総生産(GDP)比で77.6%。対外債務だけでも35.5%に達する。野村インターナショナルによると、外貨準備高は輸入の5カ月分未満にすぎず、短期債務の水準も高い。通貨安が進めば、資金繰り懸念が一層高まる可能性がある。
スリランカやパキスタンは大国インドと近接する一方、近年は「一帯一路」戦略を掲げる中国と経済的な関係を深めている。通貨急落の発生で経済情勢が不安定になれば中国への依存度が強まり中印の対立に飛び火するなど、地政学リスクの震源地になる可能性も否定できない。
【日経QUICKニュース(NQN ) 村田菜々子】
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。