証券会社で抜群の成績を誇る凄(すご)腕の営業担当者に情報収集・活用術や商品提案などの極意を聞くシリーズの4回目は、みずほ証券の細見貴史さん。短期志向ではなく長期的な資産運用を顧客に勧め、じっくり対話しながら商品提案する。連絡の頻度や話し方にも細かく気を配り、商談前日には入念な予行演習を欠かさないという。
みずほ証券 細見貴史氏
ほそみ・たかし 2011年みずほ証券入社、横浜支店(現横浜西口支店)に配属。15年10月に現在勤務する新宿営業第二部に。入社以来、個人・法人向けのコンサルティング営業を担当。現職はウェルスマネジメント一課の課長代理。これまで半期に一度の社内表彰1回受賞、四半期ごとのリテール・事業法人部門内表彰3回受賞。30歳。京都府出身
顧客が話しやすいよう、関西弁を封印
――顧客との関係を築くために心掛けていることはありますか。
「まずこちらから連絡を頻繁にしすぎるのを控えています。買ってもらった株の騰落について毎日のように連絡するとお客様の目線が短期になりがちだからです。短期間で株価が上がった下がったということより、中長期的に資産形成をしていただけるようにと心掛けています。商談のアポイントも明日、明後日ではなく事前に要件を伝えたうえで翌週、翌々週に入れるようにしています。そのほうが先方も十分な用意ができます」
「お客様に応じて話し方や対応を臨機応変に変えます。理路整然とお話ししたほうがいい方や、親しげな感じでお話しする方がいい方もいます。先方が少しでも話しやすいようにと考えるからです。私は京都出身ですが初めて配属された横浜支店時代は、お客様に受け入れていただけるよう関西弁を封印しました。商談前日は予行演習を欠かしません。営業日誌を見てこれまで話したことなどを振り返り、実際にお会いするときのやりとりをイメージするんです。そこで想定される要望に応えられるよう、できる限り資料や商品を用意しておきます」
――投資初心者への対応で注意しているのは。
「私自身、就職するまで株価を気にしたことはなかったので、投資初心者のお客様の気持ちがよく分かります。横文字はあまり使わず、わかりやすく説明することを心がけています。専門的な経済指標などを説明するときは、それがどういうことにつながるのかまでお話しするようにしています。私の話した内容が今後起こることと勘違いされてしまう場合もあるため、データが示す事実と私の見通しは明確に分けて話すよう心掛けています」
米金利、為替からGDPや人口動態まで目配り
――重視している指標は何ですか。
「経済指標では米国金利を一番気にして見ています。10年物国債と2年物国債の金利差は米国の景況感の先行きを占う上で重要な指標です。米国のISM製造業景況感指数や中古住宅の指数も注視しています。為替は米ドルやユーロに加え、リラやレアル、ペソなど取り扱いのある新興国通貨も確認するようにしています」
「中長期の投資をお勧めする上で国内総生産(GDP)、企業業績の伸び、人口動態などを長い時間軸で世界がどうなるのかお話ししたほうが理解していただきやすいです。個別株では売り上げ自体の推移に着目します。売上高が伸びていない企業は中長期的に株価は上がらないと考えているからです。主要な政治・経済イベントのスケジュールもお伝えします。統計の発表や主要国の政治動向、企業の決算などがいつあるのかを示し、その前後で相場の動きがどうなるか見通しを話します。昨年末の相場下落もあり、先行きに多くの方が不安を感じています。米中貿易問題や英国の欧州連合(EU)離脱、消費増税などへの関心は高いです」
――相場が下落しているとき顧客にどのような対応をしていますか。
「相場が急落しているときは世論も悲観的になりがちですし、お客様も先行きに不安を抱え落ち込んでしまうことがあります。もちろん事実に基づいてですが、先行きについてポジティブに話せる材料があれば話すようにしています。これまでの経験を振り返ると、世の中全体が悲観論で沈んでいるときは相場も底を打っていることが多かったです。年明け以降、日米株が戻しているので、昨年末にもう少しお客様に商品をお勧めできれば良かったなと後悔しています」
社内表彰の受賞理由について聞くと「ただ運が良かっただけです」と謙虚な姿勢が印象的だった細見さん。極度の人見知りだそうで、それゆえに「顧客の口調の変化や心の機微を敏感に感じ取れていると思う」と話す。金融機関がフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)を重視するなか、こうした繊細な顧客対応が優秀な営業成績に結び付いているのだろう。好きな言葉は先輩のアドバイス「努力が運を支配する」。常に謙虚でいるよう努め、「運が回ってきやすいよう日ごろの行いも極力良くしている」と笑う。〔日経QUICKニュース(NQN) 神宮佳江、矢内純一〕
(随時掲載)