インターネット上の仮想通貨の変動率(ボラティリティー)がここにきて安定している。ビットコインのボラティリティーは期間によっては法定通貨のトルコリラ並みの水準まで下がった。価格の急変動をもたらした投機資金の大部分は既に退散。仮想通貨市場が脚光を浴びる前から取引をしてきたグループが細々と売り買いを繰り返している程度で前途は多難だが、値動きの荒さを嫌う機関投資家からみると参入障壁が下がるというポジティブな要素もある。
30日のビットコインのドル建て価格は1ビットコイン=6300ドル前後で膠着している。9月までは1日で1000ドル超上下することも少なくなかったが、10月は大きくても300ドル程度の変動にほぼ収まっている。
仮想通貨市場の調査などを手掛けるアルトデザインによると、過去の値動きから算出するヒストリカル・ボラティリティー(HV)は直近1カ月で26%前後と、トルコリラの21%台に比べると5%程度高い水準にとどまっている。直近3カ月のベースでは43%前後と、「トルコショック」を挟んだトルコリラの48%台よりも低い。
コインチェック問題に揺れた1~2月のビットコインのHVは120~130%台だった。現在はその5分の1程度しかない。イーサリアムやリップルなど安全性が高いとされる代表的なオルトコインの変動率も軒並み下がっている。
足元では仮想通貨「テザー」を巡る混乱が続いているほか、カナダの交換所が突然取引を止めるなど相変わらずトラブルは多い。それでも現在市場に参加しているベテランの仮想通貨トレーダーや通貨の採掘者(マイナー)は「市場健全化に向けて避けては通れない道で、想定の範囲内」とほぼ反応しなかった。
波乱材料に対する抵抗力の強さは長期投資にとってはプラスだ。国際通貨研究所の志波和幸主任研究員は「価格がある程度安定していなければ投資家層は広げられない。このまま相場が落ち着けば規制整備に向けた追い風になるだろう」と話す。仮想通貨全体の売買高はピークだった今年1月から大幅に減少しているが、志波氏は「身の丈にあった市場規模は、健全性を高めるために大切なプロセスの1つ」とみる。
主に仮想通貨技術を使った資金調達(ICO)で生み出されるオルトコインの増加にも一服感が出ている。セキュリティー面で劣るオルトは悪意を持ったハッカーの標的になるなど市場を混乱させてきたが、投資家の視線が厳しくなり、10月はICOによる資金調達額は前年同月割れになるもようだ。
国が旗振り役となってICOの規制を進める機運も高まっている。さらに各国の金融当局者が集まる金融活動作業部会(FATF)は、来年6月までに仮想通貨取引などに関する最初の国際ルール策定に向けて動いているようだ。同じ時期に開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議の議長国日本が主導権を取るかもしれない。市場では「外国為替証拠金(FX)取引がレバレッジ規制などで通った道を仮想通貨もようやくたどれる」との期待が出てきた。
【日経QUICKニュース(NQN ) 尾崎也弥】
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