日経QUICKニュース(NQN)=井口耕佑
日本の外国為替証拠金(FX)取引で個人投資家「ミセスワタナベ」の根強い人気を集めていたトルコリラに異変が起きている。8月の相場急落や中央銀行による大幅な利下げで「高利回り通貨」としての地位が揺らいだうえ、ここにきてシリアを巡る地政学リスクも浮上。ミセスワタナベの買い持ち高はすでに南アフリカランドを下回るなど、資金は他の新興国通貨に流れつつある。
「ミセスワタナベのリラへの押し目買いが鈍っている」。外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏は、リラ相場への違和感を口にする。シリア情勢の緊迫が意識された7日、対円のリラ相場は1リラ=18円30銭台と前週末に比べおよそ30銭(約1.7%)下げたが、リラの買い持ち高は微増にとどまった。個人投資家は相場の流れに逆らう「逆張り」志向が強いとされる。神田氏は「材料が何であれ以前はリラが下がれば買っていたのに」といぶかる。
国内FX投資家に押し目買いをためらわせるのが、瞬時の相場急落「フラッシュ・クラッシュ」の苦い思い出だ。8月26日に1リラ=18円台前半から一気に16円台前半まで下げ、預けた証拠金の数倍~25倍まで運用額を増やす「レバレッジ」を効かせてリラを買っていた投資家が証拠金不足のために強制的に持ち高解消を迫られた経緯がある。
買い意欲の鈍さは数字にも表れている。外為どっとコムのデータによると、2018年4月時点でランドの2倍まで積み上がっていたリラの買い持ち高は、今年8月の急落以降逆転を許している。ランドには高利回りに着目した買いが増える一方リラの持ち高は減少を続けている。ある国内FXの調査担当者は「個人投資家はフラッシュ・クラッシュがトラウマになり、リラ取引のレバレッジを下げているようだ」とみる。
リラの対円相場と買い持ち高との間でマイナス1なら完全に逆の動きになると示唆する相関係数をみると、年初から急落前の8月までの期間ではマイナス0.6程度とリラ安なら買い持ち高増という逆相関関係が強かった。フラッシュ・クラッシュから足元までの期間ではマイナス幅が0.5程度まで縮小している。リラが下げてもFX投資家の買いが下値を支える、という構図は崩れつつある。
トルコのエルドアン大統領がトランプ米大統領との電話協議で、トルコがテロ組織とみなすシリアのクルド人勢力への攻撃を近く実施すると説明したのを受け、リラ相場が急変動するリスクが再び意識されている。「頼みの綱の利回りもトルコ中銀の相次ぐ利下げで大幅に低下し、相場の急変動リスクを取ってまでリラを買ううまみは乏しくなった」(外為どっとコムの神田氏)。ミセスワタナベの間でリラの存在感はかすみ始めているようだ。
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