世界の株式市場は米中貿易問題の展開に一喜一憂しているが、ベテランエコノミストの一人は熱っぽくこう語る。「市場が不安視しているのは、米中貿易問題よりも米国以外の先進国景気の弱さではないか」ーー。
SMBC日興証券によると、関税引き上げなどによる米国民総生産(GDP)へのマイナス寄与度は0.1%にすぎない。中国GDPの下押し度合いも微々たるものだ。
さまざまな地域のPMI(購買担当者景況指数)を鳥瞰すると、浮かび上がるのはユーロ圏や北欧、オーストラリア、カナダといった”米国以外の”先進国の苦境だ。サービス業や製造業をあわせた総合で4月はイタリアが好不況の分かれ目の50を割り込み、フランスも50をわずかに上回る程度。製造業では北米でカナダが唯一の50割れで、北欧のスウェーデンは6年ぶりの低水準だ。サービス業はオーストラリアが60台前半を付けていた2018年中頃から急低下し、19年1月以降は40台半ばで推移している。
PMIだけではない。主な住宅価格指数をみると、リーマン・ショック級の落ち込みを記録している国もある。「個人消費が鈍っており、住宅価格の下落につながっている。バブルの様相を呈していた住宅価格が下がったことで住宅ローンの負債が重くのしかかり、さらに消費意欲を減退させている」(エコノミスト)。QUICK FactSet Workstationの推計では日本企業の海外売上高でカナダが6位に入るなど、企業業績への影響も決して小さくない。
世界のGDPで米国、中国のシェアは4割にのぼる。米中貿易問題の負の影響が微々たるものとはいえ、もちろん無視はできず、投資家心理が大きく揺さぶられるのも事実。ただ、米中が火花を散らし投資家が右往左往する中、じわじわ浮き彫りになってきた「その他先進国の苦境」にも、目配りは必要だろう。(松下隆介)
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