やや意気消沈の東京市場。強まる不透明感や買い材料不足の中で、ESG(環境・社会・ガバナンス)が目を引く。
これまでの明確なアルファ(投資収益)が見込めなかった環境とは状況が異なる。背景にあるのは、世界的なサステナブル投資への機運の高まりだ。長期投資を前提とする年金基金が積極的にESGや「持続可能な開発目標(SDGs)」の考えを導入している。グロース株でもESGなどで高い評価を得ることができれば、安定株主を確保することが可能だ。外部環境が悪化する場面においても、グロース(成長)とディフェンシブ(安定)の両輪を備える銘柄群が見え始めた。
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の構成268銘柄をESG格付け(2018年12月末時点)別にバスケット化し、昨年末を基準(100)にして指数の推移を示した。
■AAA格はパフォーマンスも良好(AAAは9銘柄、AAは61銘柄、Aは116銘柄、BBBは64銘柄、BBは18銘柄)
5月末までで最もパフォーマンスがよかったポートフォリオはESG格付けトリプルAのバスケット。次いでダブルAで、日経平均株価が続いた。最も株価パフォーマンスが悪かったのはダブルBだった。トリプルAとダブルBのパフォーマンスには約13ポイントの乖離(かいり)が生じている。また、MSCIのESG格付けと株価推移には、順相関が確認できた。
高評価オムロンの取り組みは
ESG格付けトリプルAは、FA(ファクトリーオートメーション)製品を手掛けるオムロン(6645)や次世代通信規格「5G」関連のイビデン(4062)を含む。5月に入り米中貿易摩擦が激化する中で売りが出たものの、相対的に見れば印象ほど株価は底割れしなかった。
ニュース報道を人工知能(AI)で分析し、ESG評価に活用する英アラベスク・アセット・マネジメントもオムロンに対して高いESG評価をしている。ESGスコア65.44は、日本企業566社のうち上位5%に入る。オムロンが幅広いリサーチ機関からESGに関して高い評価を受けている背景には、17年から始めたESG説明会が一役買っている可能性がある。決算説明会とは別の日程で開催し、今年の2月開催で2回目となった。
また、オムロンは主要ESGデータとして二酸化炭素(CO2)の排出量や女性管理職比率などの計数を過去5年にわたりホームページ上で公表している。ESGに対して企業側が積極的に情報開示する姿勢をマネーが評価している側面もありそうだ。
低格付けのダブルBには山崎製パン(2212)や高島屋(8233)が該当する。山崎パンはアラベスクのESG評価で47.87と下位30%に位置。一方の高島屋は持続可能な消費・サービスモデルの構築を目指し4月9日、「髙島屋グループ SDGs 原則」を新たに策定した。今後のESG評価の改善が企業価値の向上につながっていくのか。1つのサンプルとして注目してもいいかもしれない。
関連運用、世界で資産30兆ドル超
ESGの評価の違いが株価動向を左右する背景には、サステナブル投資への機運の高まりが考えられる。世界持続的投資連合(GSIA)によると、投資機関が運用するサステナビリティ資産残高は2018年に株式、債券、プライベート・エクイティなどを合わせて30.7兆ドルに達した。16年から約34%増加している。日本だけでみると4倍超、2兆ドル規模まで急拡大した。
また最近では企業側のSDGsへの取り組みも拡大している。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が1~2月に東証一部上場の604社から回答を得たアンケートによると、SDGsについて「取り組みを始めている」と回答した企業は44.7%と前年同時期の24%から大きく増加した。
年金などの大規模な資金運用をする投資家にとって長期運用は欠かせない視点だ。GPIFは、長期の投資リターンを追求するうえで「環境問題や社会問題の影響から逃れられない」とし、運用を受託する金融機関に対してESGを考慮した投資を求めている。ある運用担当者はESGについて、「今後、運用する上では無視できない」と指摘していた。
米中対立を受けて世界経済への見通しが混とんとしている。緩和マネーが行き場を模索する中、ESGやSDGsへの積極的な取り組みが、安定株主の確保につながる局面が到来していると言えそうだ。(大野弘貴)
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