フィリピンの不動産株が好調だ。フィリピン証券取引所が算出する不動産株指数(グラフ:青)は3日時点で、2018年末の終値から20%上昇し、主要30銘柄で構成する総合指数(グラフ:赤)の8%高を大きく上回った。市況好調で不動産企業が軒並み好業績を記録しているうえ、米連邦準備理事会(FRB)やフィリピン中央銀行の金融緩和への政策転換も追い風だ。市場ではフィリピン初の不動産投資信託(REIT)上場も予定され、金融市場の「不動産ブーム」を盛り上げる。
■経済成長や中国需要が追い風
低価格住宅の販売に強みを持つ8990ホールディングスの株価は年初来で92%高と、2倍近くに上昇した。都市部で働く若年層の増加で一定の品質を確保した低価格住宅の需要が急速に高まり、収益成長につながった。経済成長に伴う所得水準の高まりや人口増加で、国内需要が好調に推移している。
首都マニラの北西にある新都市「ニュー・クラーク・シティー」は、行政が開発を後押しする。クラーク近郊で開発プロジェクトを進めるセンチュリー・プロパティーズ・グループ(グラフ:青)やフィルインベスト・ランド(グラフ:赤)、ロビンソンズ・ランド(グラフ:緑)の株価はそれぞれ年初来3~4割高と大幅上昇している。
中国マネーの流入も市況の追い風だ。投資対象としての購入だけでなく、フィリピンで働く中国人の「実需」も多い。現地メディアのビジネスワールドによると、フィリピンで働く中国人の正規の労働者数は2018年に11万人近くに達し、2年間で4倍近くに膨らんだ。中国本土で禁止されている賭博事業をフィリピン拠点で展開する中国系企業が増えているのが一因で、不動産サービス会社コリアーズ・インターナショナルは1~3月期のマニラ市況について「中国のオンラインカジノ企業の進出でオフィスの賃貸需要が好調」と指摘する。
不動産株に投資家の熱い視線が集まるこの機をとらえ、大手アヤラ・ランドは4月、フィリピン証券取引委員会にフィリピン初となるREITの上場を申請した。首都のオフィスビルなどが組み込まれる。ダブルドラゴン・プロパティーズもREIT上場を検討。新たな選択肢の登場が不動産市場を一段と後押しすると期待されている。
■開発競争の激化、先行きに暗雲
もっとも、一部の不動産株には過熱感が強まっているのは否めない。米調査会社ファクトセットの業績予想に基づく19年12月期の予想PER(株価収益率)は3日終値時点で、商業施設開発の大手SMプライム・ホールディングスが29倍、アヤラ・ランドが22倍となっている。
不動産開発各社は市場成長の恩恵を余すところなく取り込もうと、巨額の投資計画を相次いで発表している。中心地に集中する投資先を分散しようとドゥテルテ大統領は6月、首都圏での経済特区の新設停止を命じる行政命令を出した。「首都圏、地方ともに開発用地を確保済みの大手に有利」(大和キャピタル・マーケッツ)とみられ、今後は開発競争の激化が企業の明暗を分ける可能性が高まる。フィリピン不動産株の人気はまだ続きそうだが、ブームの後乗りには冷静な判断が求められる。
(NQNシンガポール=村田菜々子)
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