金融業界の収益環境が世界で厳しい。経営再建中のドイツ銀行は7日、2022年までに全行員の約2割にあたる1万8000人を削減すると発表した。世界的な低成長と低金利の常態化に体力を奪われたことが背景にある。人員削減や金融機関からの退社の動きが業界全体でじわりと広がるなか、金融株は再浮上のきっかけをつかめずにいる。
■株価は低迷していた
「ついに来たか」――。ドイツ銀の大規模な人員削減策に市場関係者はざわついた。「欧州最強」と言われたドイツ銀は1990年代末から投資銀行業務を拡大させてきたが、2008年のリーマン・ショック後は金融商品の不正販売をめぐる巨額の罰金の支払いなどで経営不安に陥り、収益悪化に苦しんだ。
パッシブ運用、MiFID2が逆風に
追い打ちをかけたのが、足元で鮮明になっている世界的な低経済成長だ。00年代以降、先進国では成長率が1~2%台にとどまり、低金利が常態化。低成長や成長資金需要の縮小を背景に世界の上場企業数が伸び悩むなか、株式売買は縮小。金融機関の投資銀行部門などの収益を減らす要因になった。さらにマッコーリーキャピタル証券の増沢丈彦ヘッドオブセールストレーディング(日本人顧客担当)は「株式売買手数料の低いパッシブ投資家の存在感が高まっているうえ、米中貿易戦争の激化に伴ってアクティブ投資家の買いが入りにくいことも苦戦の背景だ」と指摘する。
18年1月に欧州で導入された新規制「第2次金融商品市場指令(MiFID2)」が証券会社に及ぼす影響も顕著だ。同規制はアナリストの調査費用と売買手数料を明確に分離するよう定めた。以前はセルサイドと呼ばれる証券会社が、バイサイドである運用会社に調査リポートを無償で提供する代わりに売買を委託してもらうといった慣行が通例だったが、そうした慣行が通用しなくなった。運用会社側は調査費用の抑制を進めた。
米ITGが世界の運用会社の取引データに基づいて調査したグローバル・コスト・レビューによると、運用会社が証券会社に支払った株式売買手数料率は、英国ではMiFID2導入前の17年10~12月期の7.0%から導入後の18年10~12月期に5.1%まで低下した。この傾向は世界でも同様で、米国では4.0%から3.5%に、日本では5.6%から4.9%にそれぞれ低下した。市場では「外資系証券の日本株の株式売買手数料は19年度の計画に対し、6~7割にとどまり苦しい状況が続いている」(外資系証券)との声も聞かれる。
「株式営業に魅力感じず」「自由なくなった」
17年まで外資系証券に勤務し20年近く日本株営業に携わったある市場関係者は「株式営業に魅力を感じなくなった」と証券業界を離れた理由を明かす。株式売買手数料が減少の一途をたどり、企業に公平な情報提供を促す「フェアディスクロージャールール」の導入を背景にコンプライアンス(法令順守)の厳格化も進んだ。「自由がなくなった」と感じ取り、その後は再生可能エネルギー関連の会社の社長に転じ奔走しているという。
先週には一部報道で仏BNPパリバがアジアの株式調査チームの大部分を削減すると伝わった。国内でも証券会社の人員削減や退社の動きがある。次はどこか――。市場関係者からは不安の声が上がるなか、金融株の株価再浮上の道筋は見えない。
〔日経QUICKニュース(NQN) 末藤加恵〕
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