QUICKコメントチーム=大野弘貴
米中貿易摩擦の激化を受けて景気減速が鮮明となる中、世界中で金利の低下が進んだ。アクサ・インベストメント・マネージャーズ(アクサIM)の木村龍太郎・債券ストラテジストはQUICKのインタビューで「為替ヘッジプレミアムを加味した日本国債の利回りは、海外勢からみて魅力的」であるとして、更なる金利低下も十分に考えられると語った。主な一問一答は以下のとおり。
――アクサIMはどのような特色がありますか。
「世界最大級の保険・資産運用グループであるアクサ・グループの一員として、マルチ・エキスパートの資産運用ビジネスをグローバルに展開している。私が所属している債券運用部は日本国内の債券運用にフォーカスし、投資に役立つような経済・金融市場の分析をしている。その際、パリにいる日本経済担当のエコノミストと協働したり、グローバルな金利動向も加味したうえで、ハウスビューを策定している」
米景気後退は回避の見通し
――今後の経済見通しは。
「米国経済は、世界各国の中では相対的に堅調さを維持している。これは、米国内総生産(GDP)の約7割を占める個人消費が堅調なためだ。ただ、米中貿易戦争が米国の輸出と生産活動の下押し圧力となっている。4日に発表された8月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数は49.1と16年8月以来3年ぶりに好不況の境目である50を下回った。製造業では景気悪化が強く意識されている。製造業で雇用と賃金の伸びが抑制されることで、好調な米個人消費にも陰りが見え始めるか、注意が必要な局面である。特に、18年は年後半にかけて消費が不振であった時期があるため、これから発表される個人消費関連の経済データは前年比でみて実態以上に良好な結果となる可能性がある。また、今後控えている関税引き上げにより、駆け込み需要的な形で消費が前倒しされている可能性もある」
――足元の経済状況で、当初の見通しと比べて想定外だった点は何ですか。
「2019年初に策定した当初の見通しに比べ、世界経済の下振れリスクが高まっている。米中貿易戦争の激化による世界的な貿易の停滞は、当初はリスクシナリオとして捉えていた。ただ、足元の経済の実態は、このリスクシナリオがメインシナリオに傾きつつある」
――景気後退を意識すべきなのでしょうか。
「景気後退は回避されるとみている。8月は米国の10年債利回りが2年債利回りを下回る『逆イールド』が発生し景気後退を警戒する声が高まった。これは、今後の景気減速とFRBの利下げを織り込んだ動きだ。また米中の貿易対立については、来年の米大統領選を控えていることもあり、妥結に向けた何らかの進展が見られ始めると想定している」
――米中の貿易対立について、先行きは楽観的にみて良いのでしょうか。
「米中対立は大きく分けて2つの問題があると考えている。対中貿易赤字をいかに削減するかという問題と中国が技術革新を進めている中、ハイテク分野を筆頭とした米中の覇権争いだ。前者については、中国が米国から穀物などを輸入することや中国企業が米国内に工場を設立するなどして現地生産化を進めることで、ある程度の解消が可能とみている」
「一方、後者については、長期化する可能性が高く短期間での妥結は難しいだろう。これは、これまでの米国の高成長の源泉であったことと安全保障の面で大きな問題となるからだ。トランプ米大統領は大統領選を控えていることもあり短期間での解決を望んでいるが、米議会は中国に対し、トランプ米大統領よりもより強硬な立場にあると捉えている」
日銀、追加緩和は副作用大きい
――景気への先行き不透明感と中央銀行による利下げ期待により、8月に入り金利は一段と低下しました。先行きの金利見通しについて教えてください。
「今後の景気の回復期待を支えている要因の1つが金融緩和期待である。また、20年にかけて米国の成長率は緩やかに減少していくと予想している。低金利は解消しにくく、一段の金利低下も考えられる」
――金利低下を受けて、投資家はどのような資産を選好していますか。
「少しでもインカムによるリターンを得ることのできる資産が選好されている。例えば、海外投資家から見ると、為替ヘッジプレミアムを加味した日本国債の利回りは、他の先進国のの国債利回りと比較して非常に魅力的な利回りとなっている。実際に、財務省が公表する対外対内証券投資を見ても海外投資家は日本国債を大幅に買い越している。日本国内の投資家の動きでは、為替ヘッジをつけない外債投資や不動産やインフラ投資など、流動性をある程度犠牲にして高利回りを追求する動きも加速している。また、金利低下時に値上がりが期待できる資産への投資も増えている」
――今後の日銀の金融政策について、どのような動きが考えられますか。
「マイナス金利幅の拡大を予想する声も聞かれているが、弊社ではやや慎重な見方をしている。これ以上の追加緩和は、期待される効果より副作用の方が大きくなると想定している。日本経済が景気後退に陥る、若しくは外国為替市場で1ドル=100円を超える円高にならない限り、現在の金融政策を維持するのではないかと考えている」
――日銀が現状の金融政策を維持するにも関わらず、日本国債の利回りがさらにと低下する可能性はあるのでしょうか。
「十分考えられる。現在の金利低下を主導しているのが海外からの買いフローによるものである。また、金融規制上、一定の国債を保有するインセンティブも働いている。投資機会が残っている限り、日本国債への買いは続くだろう」
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