日本証券業協会はSDGsの推進に株主優待を活用する施策として「株主優待SDGs基金」を4月に設置した。ESGへの関心の高まりもあり、SDGsには国内でも多くの企業が賛同を表明している。株主優待の有効活用として、この取り組みがどのような広がりを見せるのか注目される。日証協が基金を設置するまでの経緯や狙いについて、SDGs推進室の西村淑子室長に話を聞いた。
――基金設立の経緯は?
2017年7月から、証券業界はSDGsの達成に向けた取組みを重要課題と位置付け、積極的に取り組んで参りました。会員証券会社や有識者で構成する「証券業界におけるSDGsの推進に関する懇談会」などの会議体で具体策を検討する中で、本業を通じてSDGsの推進に貢献できないかということで、株主優待の活用が提案されました。株主優待について動向を調査したところ、株主優待制度を設ける企業が非常に多いこと、その中で社会福祉や環境基金への寄付を設ける、いわゆる「社会貢献型」の株主優待を選択肢に取り入れる企業が増えていることがわかりました。また一方で、証券会社が株主として受け取る株主優待品を何らかの方法で有効活用したいというご意見がありました。このようなご提案やご意見をもとに議論した結果、「株主優待SDGs基金」を設置した次第です。
――基金の対象となる株主優待は?
寄付の対象として、以下のようなものがあります。
1つは、株主優待メニューのうち「株主優待SDGs基金への寄付」を選択した株主に係る株主優待相当額です。上場している証券会社には、各社の株主優待メニューの選択肢に「株主優待SDGs基金」を加えてもらうよう検討をお願いしています。株主優待メニューに加えてもらえれば、株主の選択により、基金への寄付が行われます。現在、社会貢献型の優待を導入している証券会社が2社ありますが、いずれもこの基金への寄付をメニューに加えることを決定しています。
次に株主優待品の受領を放棄した株主に係る株主優待相当額です。証券会社の株主には、株主優待の受け取りを放棄する方がいます。その受取放棄の相当額を、基金に寄付してもらうという方法もあります。証券会社の株主には、国内外の機関投資家が少なくありません。そういった方たちの株主優待受取放棄分を証券会社から基金に提供してもらい、活用できればということです。この方法に賛同していただいている証券会社もあります。
また、先ほど申し上げた通り、証券会社が株主として多くの株主優待品を受領しています。証券会社にこれら株主優待品を換金してもらい、相当額を寄付してもらうという方法もあります。既にこの方法により、数社の証券会社からの寄付がありました。
――会員以外からの寄付は受け付けていないのか?
現在は、会員である証券会社からの寄付に限定しています。
しかし、基金の設置を発表してから、証券会社以外の一般事業会社からもお問い合わせが何件か寄せられました。株主優待に社会貢献型のメニューを導入することで、個人投資家を増やしたいと思い、本協会の取組みに興味関心を持っていただいたようです。今後この取り組みが認知されていくようであれば、将来的には証券会社以外からの寄付を受け付けることも検討したいと思っています。
――支援先はどのように決めたのか?
支援先はSDGsを推進する団体から毎年度選定します。今年度は、基金による支援先を国際連合の食糧支援機関である「WFP国連世界食糧計画」の発展途上国向けの「学校給食プログラム」とすることを、2019年4月に決定、発表しました。このプログラムへの支援は、飢餓の解消のみならず、現状、労働力とされることが多い女児の通学率の向上、教育の普及ひいては地域の経済発展といったより多くのSDGs達成に繋がります。また、基金の原資には、海外投資家の保有する株式から発生するものも含みますので、海外の方にも納得していただける支援先として、世界的に活動している団体を選びました。また、国連WFPの学校給食プログラムは「30円で1日分の給食を支給できる」ということで、寄付金の提供者に資金使途がわかりやすいこともポイントです。支援先の決定にあたっては、その団体が寄付金を適切に使用しているか、ガバナンスは問題ないかなどきちんと審査しなければなりません。国連WFPは、もちろん信頼に足る機関ですし、実施されているプログラムが幅広い分野に貢献できる素晴らしい取組みと考えております。
――基金の目標金額などあるのか?
寄付額の目標などは、今年からの取組みでもありますし、規模がわからないことから特に決めていません。本取組みは、「寄付金をいくら集める」といった金額の多寡よりも、株主優待を通じてSDGsに貢献できることを周知することに大きな意味があると考えています。今年度の支援先である国連WFPからも、国連WFPの取り組みを幅広く知ってもらうことが大切だとお聞きました。