投資信託業界で「見える化」の動きが広がり、オフィスを公開する運用会社が増えてきた。三井住友アセットマネジメントは2016年4月から販売会社や独立系金融アドバイザー(IFA)会社、一般投資家向けに「オフィスツアー」を開いてきたが、この2月に初めてメディア向けに開催した。日頃は表に出る機会が少ないオフィスをメディアに公開することで、実態を知ってもらい、資産形成の裾野拡大につなげるのが狙いだ。
■運用部門やバックオフィス部門を公開
同社のオフィス(東京・港)は650人近くが働き、国内の運用会社では4番目に多いという。ツアーはエコノミストやストラテジストが所属する調査部、目論見書や月次レポートを作成するディスクロージャー部、基準価額の算定業務に関わる資産管理部、そして心臓部の運用部門、ESG(環境・社会・企業統治)関連の調査などを担うスチュワードシップ推進室といった部署を順に巡り、幹部社員がそれぞれ業務内容を説明した。運用会社の業務フローを理解してもらうためにバックオフィス部門の見学も組み込んだ。
■エコノミスト、ファンドマネジャーを身近に
いつもメディアの取材に対応しているエコノミストやファンドマネジャーらがどのような環境で働いているかを知ることで、より身近に感じてもらうことに期待を寄せる。ツアーに先立ち、チーフエコノミストの宅森昭吉氏、株式運用グループヘッドの山口健氏による勉強会も開いた。
ファンドマネジャーを前面に出した「顔の見える投信」は独立系投信が先行してきたが、ここにきて大手が追随。投資家らに信頼・安心を与える取り組みの一環としてオフィス公開も広がりそう。金融庁が金融機関に「顧客本位の業務運営」を求めていることもあって、運用会社による見える化や情報発信の強化が進んでいる。
(勉強会の要旨は下記の通り)
◇宅森氏、街角景気で日経平均のトレンド転換を判断
経済動向を分析するうえで、生活実感が伴う肌感覚の「身近なデータ」の変化を重視。中でも内閣府が毎月6営業日後に公表する「景気ウォッチャー調査(通称、街角景気調査)」が役に立つとして、同社サイトで「宅森昭吉のエコノミックレポート」としてその内容を解説している。
この調査結果で示される景気判断指数は、タクシー運転手や小売り業者など全国約2000人に景気の良し悪し(3カ月前と比較した現状判断と数カ月後の先行き判断の2種類)を5段階に分けて尋ね、それを数値変換して指数化したものだ。
景気に先行する日経平均株価と現状判断指数は、転換点がほぼ同じになる傾向がみられるという。例えば、2月8日公表の指数値は前月から大きく下げ、株価に「売りサイン」が灯った。過去6年間に遡って、現状判断指数の上下トレンド転換点を判別し、転換日に合わせ日経平均株価をドテン(保有している持ち高を決済する一方、それと売り買いが逆の持ち高を構築)したとすると、8000円台で始まった日経平均に対し、10000円以上儲かった計算になる。
その他には音楽シングルCDの初動販売枚数に注目。販売枚数が50万枚を超えたCDがあると景気の足腰は強いと判断している。消費税率が引き上げられた14年4月の月末に人気グループ「嵐」のCDが発売されたが、そのCD初動販売数は50万枚を超えていた。多くが増税による景気の底割れを危惧したが、同氏は増税後も景気後退にならないと判断していた。昨年後半は、嵐や乃木坂46、欅坂46などのCD初動販売数が50万枚を超え、景気の強さを示していたという。
日銀の金融政策に関し、仏滅の日に政策金利が変更されるのはごくまれというジンクスもある。平成元年以降23回連続して仏滅の日に政策金利変更が実施されたことはなく、仏滅だったのは11年前の2月の最後の利上げの日だけだという。経済の現状や先行きを読み解く身近なデータには事欠かないようだ。
◇山口氏「日本企業の業績の為替感応度が相当低下」
最近の世界的株式相場の波乱を「ポートフォリオのボラティリティー(価格変動リスク)水準を一定に保つ投資戦略をとる金融商品において、昨年から続いた市場のボラティリティーの低下からレバレッジをかける形で投資額が膨み収益も上がっていた」と分析。ところが「米国の賃金上昇が予想以上となり米国長期債が売られ金融市場でのボラティリティーが上昇に転じた。その結果、ポートフォリオ全体の価格変動リスクを一定以下に抑えるためレバレッジを低下させる動きが加速し、これが世界的な株安につながった」と解説する。
こうした中、日本株の相場動向については「日本企業の企業業績は堅調であり、大手メーカーを中心に世界の現地生産が進み、企業業績の為替感応度は相当低くなっており、多少の円高でも企業業績が下振れしにくくなっている」と指摘。「堅調な業績見通しに変化はないが、米国長期債の値動きによる株価への悪影響にはまだ留意が必要で、当面3カ月程度、日本株相場はもみ合いの展開となるだろう」との見方を示した。
(QUICK資産運用研究所 高瀬浩)