投資信託の選び方や買い付け方法が多様化している。金融機関の窓口でじっくり相談しながら選ぶ人もいれば、インターネットでサクッと買う人もいる。運用会社から直接購入するのも手段の1つ。投信を直販している運用会社は投資理念や顧客との接点づくりなどに特色があり、それに共感したいわばファンのような顧客を引き付けている。
「投信の直販NAVI」では、ファンドを顧客に直接販売する運用各社の思いや特長を掘り下げていく。初回を飾るのは、2007年に設立された「コモンズ投信」。09年1月に公募投信「コモンズ30ファンド」(9N311091)の直販を始め、2年後に銀行や証券会社といった金融機関を通じた取り扱いも開始した。
現在直販しているのは、「コモンズ30ファンド」と「ザ・2020ビジョン」(9N31113C)の2本。静岡銀行などを通じて販売している「コモンズ30+しずぎんファンド」(9N31114C)を含めると、同社が運用する公募投信は3本で、純資産総額(残高)は合計198億円(3月末時点)。私募投信を含めた運用資産残高合計は303億円(同時点)。
昨年に発表した運用損益別の顧客比率(18年3月末時点)では、顧客の約98%が含み益だった。金融庁のまとめによると、コモンズ投信は昨年末までに同比率を公表した96金融機関の中で含み益の顧客割合がダントツに高かった。創業メンバーの1人で代表取締役社長を務める伊井哲朗氏に話を聞いた。
■日本に長期投資の文化を
――コモンズ投信の根っこにある思いは。
「『自分たちが買いたくなるような商品を作りたい』と集まったのが創設時のメンバーです。目指したのは、本格的な長期投資のファンドでした」
「企業の経営者は何十年も先のことを考えて経営をしています。四半期などの足元だけ見ているわけではありません。一方で、日本には長期投資の文化がない。経営者と同じ時間軸で将来のビジネスを考え、後押ししていく投資家がいなかったわけです。それなら長期投資のファンドを作ろうということで、生まれたのがこのファンドです。著名な尊敬する経営者の方々もそろって賛同してくれました」
――個人向けにした狙いは。
「国内の機関投資家は、それほど長期の投資ができません。運用成績を四半期ごとに開示するため短期的な成績を重視する傾向があり、投信自体もテーマ型のファンドが主流でやはり短期的な成果の追求になっています。経営者と同じ長期の時間軸で資金を出せる投資家として、行き着いたのが個人の資産形成のための資金です。欧米では確定拠出年金(DC)の仕組みが定着し、個人による長期投資の文化が根付いています」
「創業当時は個人が投信で長期投資する風潮や現役世代が活用しやすい税制優遇などがなく、気軽に資産形成できる環境がなかった。お客さまの長期的な資産形成を目指して投信を取り扱ってくれる販売会社もなかったので、それなら自分たちで資金を集めよう、日本に長期投資・積み立て投資の文化を作っていこうと思い立ちました」
■「生産者の顔が見える」直販
――直販の魅力は何ですか。
「生産者(=運用者)の顔が見えて、思いが伝わりやすい点です。農家で野菜を育てた人から直接買うのと同じです。スーパーに並んだものを買うよりも、生産者から少し土がついたくらいの野菜を手渡しされるほうが、安心しておいしく食べられるでしょう」
「ただ、いい投信を買うだけではお金は増えません。いかに長く保有し続けるかが大事です。生産者の顔が見えず、中身がよくわからないファンドは、価格が下がった時に持ちこたえられない。直販なら中身が見えやすく、生産者の思いが直接伝わりやすいので、長く続けられると思います」
――長期保有のために工夫していることは。
「ひとつはディスクローズ(情報公開)です。セミナーなどで顔を合わせて話をしたり、月次レポートをメッセージ性のある内容にしたりといった工夫をしています。投資先の企業経営者が参加するセミナーもあるので、投資家と経営者がお互いの声を聴ける貴重な機会にもなっています」
■寄付を通じた社会貢献活動も
――そのほかに顧客満足度を高める取り組みは。
「どの業界でも、消費者の心をつかむために『モノ』から『コト』へサービスを変化させています。ところが、金融業界では、いまだに『モノ』に関する議論ばかり。本来、投資を通じていろんな気づきや学びがあるはずです。単に『もうかればいい』というわけではなくなってきている。投資という行為そのものが『コト』消費と認識されれば、長く投資を続けるきっかけになると考え、様々な活動をしています」
「2010年から始めた『こどもトラスト』は、お子様の名義でファンドに投資できるサービスです。夏休みや春休みなどには、親子で参加できるお金の教室や寄付の教室などを開催し、社会にお金がどう回っているのかを学びます。親子でお金や投資に向き合うことで、投資を続けようという気持ちも強くなります」
「また、直販を始めた当初から続けている活動のひとつが寄付です。直販の売り上げの1%程度を非営利団体などの社会起業家や障がい者スポーツの団体に寄付するプログラムで、実際にその活動の場にファンドの保有者の方々と足を運ぶことがあります。最初のころは寄付することに対してネガティブな声もありましたが、今では女性やシニア世代を中心に関心が高いです。投資を通じて社会貢献しているという気持ちが長期投資につながるのではないでしょうか」
■約8割が積み立て利用、ほとんどが含み益
――直販の顧客属性は。
「直販口座を年代別に分けると、6人に1人が未成年。割合として多いのは40、50代の働く世代で、最近は人生100年時代とさかんに言われるようになったせいか、60歳以降のシニア層の新規申し込みも目立ちます。僕は、親族にも積み立ては一生やり続けるものですと言っています」
――他の直販会社と比べても含み益の顧客割合が高いです(図1)。
「注目してほしいのは、含み益が10%以上の顧客比率が多いことです。この好成績の秘密は、長期保有と積み立て投資にあります。投資期間が長いほど含み益の顧客割合は多くなっています。また、直販の顧客は79%が積み立て投資をしていて、それがこのような成果につながったと考えています」
<関連サイト>
(QUICK資産運用研究所 小松めぐみ)