規模がモノを言う新薬開発、大型買収さらに加速
AIPE認定 知的財産アナリスト(特許)、弁理士、博士(理学)=松田隆子
証券アナリスト=三浦毅司
企業評価への視点
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がん免疫療法に係る特許出願で、上位は中外製薬(4519)、創薬ベンチャーのオンコセラピー・サイエンス(4564)、第一三共(4568)
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大型買収が可能な体力を残すのは、売上高が1兆円規模の武田薬品工業(4502)、アステラス製薬(4503)、大塚ホールディングス(4578)、第一三共
- 最先端の「キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法」では、タカラバイオ(4974)が他の国内企業に先行して開発中。後れをとった武田がシャイアー買収により規模を拡大、巻き返しの可能性も
■先進2分野で出遅れる日本勢
がんによってブレーキがかかった免疫攻撃力を回復させる療法に使う免疫チェックポイント阻害薬の世界市場規模は、主要製薬会社の売上ベースで、2017年は約100億ドル、20年までには250億ドル弱に拡大し、26年には市場全体で300億ドルを超える。
一方、遺伝子改変により自らの細胞の免疫力を強化してがん細胞を攻撃させるCAR-T(カーティー)細胞療法は17年に米国で初の製造販売承認がなされた。市場規模は現状では比較的小さいが、19年~28年の年平均成長率は46%強、28年の世界市場規模は80億ドルを超える。
がん免疫療法における企業別の日本での特許出願件数を見てみると、国内での出願にもかかわらず日本企業は海外大手に大きく遅れをとっている。上位に名を連ねるのは中外製薬、創薬ベンチャーのオンコセラピー・サイエンス、第一三共だけだ。
■日本国内での特許出願件数(2008年以降に出願されたもの)
※特許庁係属:特許出願(申請)がされたもので、まだ権利化(登録)の可能性が残っているもの
出所:正林国際特許商標事務所作成
先進2分野(免疫チェックポイント阻害療法、CAR-T細胞療法)において、海外企業は非常に積極的な権利化を進めているが、日本企業の権利化はほとんど進んでいない。海外の上位勢には潤沢な研究費を確保している大学などの研究機関もみられる。研究予算が限られる中で海外勢にこれだけ水をあけられると、日本企業が自前の研究開発で追いつくのは非常に難しいだろう。
■「第2のオプジーボ」の可能性は?
免疫療法で用いられるバイオ医薬品の場合、生きた細胞を用いるため開発研究に掛かる費用が数十億円に跳ね上がるうえ、量産化のための投資も莫大である。そのため、トータルの開発コストが一桁上がることも多く、日本の市場だけでは投資回収が難しい。ライセンス導入ではジェネリック医薬品並みの利益率に落ち込むであろうし、将来の生産にも不安定さが残る。資金調達が可能であれば買収に向かうだろう。
買収できるかどうかは、負債の返済能力からみて、売上高が1兆円あるかどうかが分岐点となる。その条件を満たすのは、武田薬品工業、アステラス、大塚ホールディングス、第一三共の4社。世界に伍していくためには、数兆円の売上高が必要でハードルは高く、現在世界との競合が見えているのは武田に限定される。
小野薬品はオプジーボの開発までは中堅製薬会社であったが、発売により株式時価総額では大手と互角になった。ただ当時と比較して世界的な製薬会社や大学・研究機関がこの分野の研究開発に凌ぎを削っている現状では、小規模メーカーが一発逆転を実現する可能性は大幅に低下したと言わざるを得ない。
CAR-T細胞を用いたがん抗原特異的T細胞療法は、がん免疫療法で現在最もホットな分野であるが、日本企業では、タカラバイオが先駆けて開発・権利化を進めている。
国内トップの武田は、昨年、山口大学の玉田耕治教授による「固形がん」を対象としたCAR-T細胞療法に関する成果を基に立ち上げられた大学発ベンチャーのノイルイミューン・バイオテックとの提携を発表。現状のCAR-T細胞療法に関する成果の多くは、「白血病・リンパ腫等の血液がん」に対するものであり、固形がんに関してはその性質の難しさから、世界的にも未だ有望な効果が示されていない。今後、固形がんに対する効果が確認されれば、武田の巻き返しもあり得る。
(2018年12月27日に配信したものです)
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正林国際特許商標事務所 (三浦毅司 [email protected] 電話03-6895-4500)