日経QUICKニュース(NQN)=編集委員 今晶
15日の欧米外国為替市場で円相場は下落し、一時は1ドル=108円90銭近辺と2カ月半ぶりの安値を付けた。米中貿易交渉の部分的合意や英国の合意なき欧州連合(EU)離脱懸念の後退を背景にリスクをとって円を売る動きが増えた。けん引役の一つとみられているのが対英ポンドでの円安。日本で外為証拠金(FX)取引を手掛ける個人投資家の層が薄いところに仕掛け的な円売り・ポンド買いが広がり、円の全面安を演出した。
■ドル・円(青)とポンド・円(赤)
円の対ポンド相場は東京市場で付けていた1ポンド=136円台から139円台前半まで安くなった。ポンドは英EU離脱(ブレグジット)問題の影響でここ3年ほどの間にだいぶ下げたが、1通貨当たりの価値はまだユーロやドルよりも高い。そのため同じ取引単位でも値動きはダイナミックになる。売りと買い注文の価格差は開く傾向にあり、円相場への波及効果は大きい。
もしポンド高・円安の進行速度がポンド高・ドル安よりも速ければ円の対ドル相場は自動的に押し下げられる。円の対ドル取引に君臨し続ける高速の高頻度取引「HFT」の売買水準もおのずと円安・ドル高方向に振れる。「もし円相場を短時間で動かしたいのなら、対ポンドでの円売りや円買いはHFT対策としてうまい方法」(国内銀行の為替ディーラー)といえるわけだ。
しかもポンドはその変動率の大きさから、相場の流れに逆らう日本のFX投資家「ミセスワタナベ」の参加が少ない。例えばFX大手の外為どっとコムによると、14日時点のポンドの買い持ち高は米ドルの13%程度しかない。ポンド買いに対する逆張りの売りでの抵抗もかなり薄かったはずだ。
では、円安傾向に持続性はあるのだろうか。
ポンドなどドル以外の通貨の対円相場(クロス円相場)に軸足を置いた円売り戦略はドルの底堅さが前提だ。ドルが歩調を合わせて売り込まれると円相場への影響は中立となってしまう。15日は米金利の上昇もあってドル安圧力は弱かったものの、世界経済の減速懸念が残り米利下げ観測がくすぶる中でのドル高の持続性には懐疑論が強い。
将来の為替レートを予測する通貨オプション市場で円相場の予想変動率は低位で安定している。日本時間16日6時時点の1カ月物は6.2~6.4%前後と9月終盤以来の低い水準だ。円の先安観が特に高まっていない様子がうかがえる。
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