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安定成長から一転、困窮にあえぐ国を歩く(エマージング深層潮流)

エマージング深層潮流 VOL.4 クラウドクレジット運用部

まずは下のグラフをご覧いただきたい。

2014年第4四半期から2018年第1四半期までの約3年間は平均して4.6%の安定成長を続けていたが、18年第2四半期から突如としてマイナス成長に陥った国がある。同年第4四半期は前年比▲7.7%。国際通貨基金(IMF)の予想によると2019年通年の成長率は対前年比▲5.0%、2020年は▲0.8%となっている。(Banco Central De Nicaraguaのデータを元にクラウドクレジット作成)

この国は中米のニカラグアである。あまり馴染みがないかもしれないが、北はホンジュラス、南はコスタリカに挟まれ、中米ではメキシコを除くと最大の版図を誇る。だが経済的には中南米の中でハイチに次ぐ貧しい国だ。ちなみに2018年の一人当たりGDPは1860米ドル、購買力平価ベースで4910米ドルである。世界的な順位は140位台で、インドより下でケニアより若干上といったところである。労働人口の40%以上が第一次産業に従事しており、主要な産物は牛肉、乳製品、コーヒー、豆、葉巻など。牛肉や乳製品は主要な輸出品だ。2018年のGDPの内訳は、農業12%、鉱工業22%、サービス業15%である。

財政悪化のきっかけは原油市況下落

ニカラグアは大統領を元首とする共和制国家である。現大統領のダニエル・オルテガ氏は1979年のサンディニスタ社会主義革命の英雄で、その後の反革命運動後の大統領選挙で負けていったん下野するものの、2006年の大統領選挙において得票率38%で政権に返り咲いた。現在3期目を務めている。

オルテガ氏が権力を維持できたのは、ベネズエラのチャベス大統領の巨額な資金援助によるところが大きかったと言われている。チャベス大統領は潤沢なオイルマネーを中南米の左派政権にばらまいて影響力の拡大を目論んだが、原油市況の低迷から資金が底をつき、2017年にはニカラグアへの資金援助も止まってしまったとのことだ。

国家財政が困窮したニカラグアは、それまで大盤振る舞いしてきた社会福祉政策を切り詰めざるを得なくなる。2018年3月には電気料金を引き上げ、さらに正式な手続きを経ずに年金保険料も引き上げた。それまでも反政府的な言論を統制され、怪しいと目を付けられれば軍と警察に締め上げられ、容赦なく投獄されていた国民の怒りは頂点に達する。4月に入ると首都マナグアに反政府デモが大々的に組織化され、マナグアのみならず隣接した都市マサラまでの広範囲にわたる道路が封鎖された。

これに対して大統領は強権を発動し、政府系の民兵は学生を中心とした暴徒化したデモ隊に容赦なく襲いかかった。人権団体によると累計死者数は少なくとも285名に上るとのことだ。また18年6月まで続いた暴動による経済的な損失は2億3300万米ドル、GDPの1.6%に達するという。

昨年までのデモ・暴動が嘘のような市街

今年10月、筆者は現地に赴き、現在いったい何が起こっているのかを調査してきた。首都マナグアへの日本からの直行便はないので米ヒューストンを経由して当地に入った。ヒューストンからは3時間程のフライトである。首都マナグアのインテルナシオナル・アウグスト C. サンディノ空港は日本の地方空港のような大きさで、入国審査の際、10米ドルでツーリストカードを購入させられる。事実上の入国税である。

空港からホテルまでのタクシー代は16米ドルで、この国の物価水準からみて決して安くはない。空港からホテルまでの幹線道路の交通量は必ずしも多くはなく、1年前の暴動が嘘のように平和な光景が続いていた。ホテル近くには24時間営業のコンビニエンスストア「am/pm」があり、24時間営業できるということは現在の治安は良好なのだろうと推測された。

首都マナグアの市街は一見、平穏だが……(クラウドクレジット撮影)

外資撤退で経済の冷え込み深刻

当社と取引のある現地金融機関および国際協力機構(JICA)ニカラグア事務所を訪問して現況のヒアリングを行なった。JICAの所長は当地に20年以上駐在しているが、これほど混乱を極める状況は初めてだと話していた。議論の要約は以下の通り。

  • 昨年の暴動後、米国の大手銀行4行が撤退した。それを受け一気に外国からの投資資金が引き揚げられ、それまで外国からの投資資金で成り立っていたニカラグア経済を一気に冷え込ませた。
  • 新聞やテレビなどの主要メディアは政府に管理されており、デモの被害者やその後の逮捕者についての正しい情報は得られない。反政府団体の主張と政府の発表は全く異なる状況が続いている。
  • (昨年の反政府暴動を仕掛けたのは米国か、との筆者の質問に対して)そういった話は常にある。ただ1980年代の反革命闘争の際、米国は反政府組織コントラを支援したが、さすがに今はこの小国にリスクを冒すほどの興味はないのではないか。
  • 政府が発表する経済統計、特に失業率は信用できない。社会主義的なスタンスで国民に寄り添う政府を標ぼうしている以上、失業率が上昇するのは避けたいはず。
  • オルテガ大統領は2021年の大統領選挙で再選を目指している。それに向けてまた反政府運動が再燃する可能性が高い。

社会の分断という構造的な病

現在ニカラグアは小康状態にあり国内は不気味なほど静まり返っているが、決して問題が解決された訳ではなく、再び外国からの投資が戻ってこない限り経済の本格的な回復は難しいと見受けられた。

2018年の暴動は大統領の失策が直接の引き金だったが、根本的な原因は中南米に蔓延している社会の分断という病だ。スペインやポルトガルの植民地運営は、支配者と被支配者を厳然と分断することによって成り立っていた。支配者層は米国資本と手を結んで利益を追求・独占し、被支配者層は貧困から抜け出せない構造となっている。ニカラグアはその構造的問題を未だ抱えている。

新興国市場への投資においては、その国を知ることが不可欠だが、マクロ経済指標など定量的な数字からは決して浮かび上がってこない歴史、経済構造や政治情勢、民族構成や宗教といった定性的な情報の入手と分析が非常に重要になる。今回のニカラグア取材でそのことを再認識させられた。

(月1回配信します)


クラウドクレジット株式会社 「日本の個人投資家と世界の信用市場をつなぐ」をコーポレートミッションとして掲げ、日本の個人投資家から集めた資金を海外の事業者に融資する貸付型クラウドファンディングを展開。新興国でのインフラ関連案件も多く、現地のマクロ・ミクロ経済動向などに詳しい。累計出資金額は約239億円、運用残高約131億円、ユーザー登録数4万1000人以上(2019年11月10日時点)


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