金銭的なリターンと社会的なリターン(環境・社会課題の解決への貢献)を同時に追求する「社会的インパクト投資」が、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の延長線上で徐々に拡大してきている。個人が手軽にインパクト投資をする手段として、インパクト投資ファンド(投資信託)を購入する手段があるが、上場企業を通じた間接的な投資に留まる。
一方、海外企業への「貸付型クラウドファンディング」は、信用リスクや通貨変動リスクは高いものの、直接的かつ手軽に、途上国や新興国にインパクト投資ができる。この分野で存在感を示しているのが、貸付型クラウドファンディングのプラットフォームを提供しているクラウドクレジットだ。クラウドクレジットで商品企画を担当する武谷由紀氏に、ファンド運用の現状と信念について聞いた。
■100社から数社を選別、二つのリターンの両立を意識
――クラウドクレジットの運用について教えてください。
「選別時には、企業の資産規模や収益性、成長性を確認した上で、『ユニークネス』の有無を重視して選別しています。我々がユニークネスと呼ぶのは、その会社に投資することで従来の金融ではアクセスが難しかった社会課題を解決できるのか、という点です」
「途上国を中心に100社程度の海外企業から話を聞き、そこからデューデリジェンス(投資先の価値やリスクなどの調査)に進むのは10社程度です。さらにそこから2、3社のみをファンドの投資先として選びます」
「また、金銭的リターンと社会的リターンを両立させるインパクト投資なので、ファンド組成時には、他の商品と比べて競争力があるリターンが出せるかどうかが決め手となります。金銭的なリターンは通貨リスクによって大きく変わってきます。二つのリターンの両立は難しいですが、リターンが出ないファンドは、お客様には提供できませんので」
――投資家に向けて意識されていることは。
「我々のミッションは『世界をつなぐ金融』です。我々が介在することで、従来の金融ではアクセスしにくい国・地域に、金融のアクセスを生み出すことができます。また、日本の投資家に成長機会のある国・地域への投資、という選択肢を提供できていると思います」
「ファンドのリスクとリターンだけでなく、そのファンドに投資することで得られる社会的インパクトについてのストーリーをお伝えすることで、投資家の皆様に奥行きのある情報を提供し、多面的な判断材料を投資家に届けるよう心がけています。実際に『自分が投資したファンド(ラテンアメリカの女性支援ファンド)の先では、こんなに心のあたたまる話があったんですね』とお声をいただいたこともあります」
■「世界をつなぐ」金融の意義
――クラウドクレジットで働こうと思ったきっかけは。
「以前、あるグローバル企業に勤めていた経験から、先進国でも途上国でも共通の課題があることを実感しました。それは、生活の基盤へのアクセスが閉ざされているかどうかが、生活の水準を大きく左右するというものです」
「例えば、公共交通機関がない地域は、会社が少し離れた場所にあるだけで、行きづらいですよね。つまり、車を持っていなければ、就業機会が少なくなってしまいます。同じことは、金融へのアクセスにも言えると思います。車を買うには(分割払いをするにしても)頭金が必要となります。頭金を金融機関から調達し、車を購入できれば、就業先の選択肢が広がります。金融へのアクセスさえ生み出せれば、ちゃんとした仕事を得て、生活を変えていける人がたくさん存在するということです」
「こうした『世界をつなぐ金融』に尽力できるのがクラウドクレジットという会社だと思います。また、過去に国際協力機構(JICA)で円借款関連の業務をしていた経験が運用面で活かせると思ったことも、入社の理由の一つです」
――新型コロナウイルスの影響は。
「影響はないとは言えません。従来なら現地を訪問し、投資先を調査できましたが、足元では難しくなっています。ただ、オンライン化されているものは、オンラインで参加しています。例えばテレビ会議を利用し、投資先の会社のモニタリング頻度を高め、まめに情報交換するようにしています。投資家とのコミュニケーションについても、引き続き積極的に取り組んでいく方針です」
(QUICK Money World)