日経QUICKニュース(NQN)=尾崎也弥
25日の東京株式市場でキリンHD(2503)は底堅い展開となった。同日朝に傘下のオーストラリアの飲料事業を売却すると発表した。昨年秋に売却を決めてから、資産価値の引き下げなどを経ての売却となったため、短期的な株価の押し上げ効果は限定的だった。それでも市場では業績の重荷だった事業を切り離すことで、キリンHDの独自路線を評価する地ならしにはなるとの見方が多い。
売却するのはキリンHDの豪州やニュージーランド事業を統括するライオン傘下の事業会社、ライオン飲料。2007年に約2940億円で買収した豪乳業大手のナショナルフーズが前身で、のちに同業の豪デアリーファーマーズと合併して現在の企業体になった。20年上半期中に中国の乳業大手、蒙牛(もうぎゅう)乳業への売却手続きを完了する。売却額は約6億豪ドル(約456億円)。
キリンHDは18年秋にライオンの飲料事業の売却を決め、相手を探してきた。この間、オーストラリアで起きた干ばつの影響などで収益性が低下し、資産価値を引き下げたことで4月には同事業での約571億円の減損損失計上を発表していた。こうした経緯や買収にあたっての目利き力を踏まえると、前向きな評価にはつながりにくかったようだ。
一方、市場では「無事に売却できるようになったことで、業績の先行き不透明感はいくぶん薄れた」(国内のファンドマネジャー)との声も出ている。キリンHDは朝方に前週末比20円(0.8%)安の2452円50銭を付けたあと下値を探る動きは限られ、小幅ながら上昇に転じる場面も目立った。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の角山智信シニアアナリストは「消費者のニーズが多様化するなかクラフトビールの強化や、健康事業の創造という独自戦略の成果が出るか」をキリンHDの成長ポイントとして指摘する。キリンHDは11月、米クラフトビール大手、ニュー・ベルジャン・ブルーイング(コロラド州)を買収すると発表した。小規模生産でビールの味や香りの独自性を出すクラフトビールは近年、需要が伸びている。欧州の大型老舗ブランドを活用して海外事業の拡大を狙うアサヒ(2502)とは異なる戦略を打ち出している。重要な成長事業と掲げる「医と食をつなぐ事業」もファンケル(4921)との資本業務提携などによって成長を加速させる構えだ。
最近のキリンHD株は7日に発表した1000億円を上限とする自社株買いに支えられ、8月に付けた年初来安値(2033円)からの戻りが鮮明だ。もっとも、年初来の株価上昇率はアサヒに水をあけられている。クラフトや健康事業の開花という成長シナリオを投資家に印象づけられれば、キリンHD株の上値余地も広がりそうだ。
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