日経QUICKニュース(NQN)=菊池亜矢
スウェーデンの中央銀行であるリクスバンクが、政策金利であるレポ金利を現在のマイナス0.25%からゼロ%に引き上げるとの観測が高まっている。マイナス金利政策の「先駆け的中銀」ともいえるスウェーデン中銀がマイナス金利からの脱却に先鞭(せんべん)をつければ、マイナス金利を採用する他の中央銀行に議論が波及する可能性がある。
25日のスウェーデンクローナは対ユーロで1ユーロ=10クローナ台半ば、対円では1クローナ=11円台前半で推移した。対ユーロ、対円ともに年初からはじわじわとクローナ売りが進み、ユーロに対しては3%ほど安くなった。
スウェーデンの直近の経済動向をみると、10月の消費者物価指数(CPIF)上昇率は前年比1.5%と中銀の物価目標である2%近辺を下回る。7~9月期の国内総生産(GDP)は前期比0.1%増にとどまるなど、絶好調とはほど遠い。「ユーロ圏経済との連動性も考慮すれば、スウェーデンだけ今後景気が好調になることも想定しにくい」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田陽介氏)。
リクスバンクは次回の金融政策決定会合の結果を12月19日に公表する予定。だが足元の物価や経済の動向を踏まえると、利上げは正当化できそうにない。それでもリクスバンクは前回10月会合後の公表文で「従前通り、経済の見通しは12月に政策金利をゼロ%に引き上げる可能性が高いことを示唆している」と明記した。
「物価より副作用を重視」と分析
みずほ銀行の唐鎌大輔氏は「物価を犠牲にしてもマイナス金利の副作用のほうが大きいという判断に傾いている」のが理由ではないかとみる。オランダの金融機関ラボバンクは22日付のリポートで「政策当局者らは住宅価格の上昇と家計債務の高さを懸念し始めている」ことを理由に挙げた。さらに、マイナス金利政策があまりに長く続くと「消費者行動に多大な影響を及ぼし、結果として無謀な借り入れやバブルを引き起こす可能性が高くなるとの問題提起もある」(ラボバンク)と指摘した。
仮にリクスバンクが利上げに踏み切っても、クローナ高がそれほど進まない可能性を見込む声もある。ギリシャ債務危機などユーロ圏の構造そのものが問われるような状況ではない現在、逃避先通貨やユーロの代替通貨としてのクローナ買いは進みにくくなった。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田氏は、リクスバンクが「クローナ高抑制のために欧州中央銀行(ECB)以上の金融緩和をする必要性は薄れている」と話し、クローナ高の進みにくさも、マイナス金利からの脱却を目指す中銀の背中を押すのではないかと分析する。
いまの世界的な金融緩和局面で、物価目標を達成しないままマイナス金利政策を終えた中央銀行はまだない。そのため、「仮にゼロ%に利上げすれば、マイナス金利採用国にとっての意味はそれなりに大きい」(みずほ銀の唐鎌氏)。
第一生命経済研究所の田中理氏は「来年以降、世界的な景気の底入れ感が継続したとしても、他のマイナス金利政策の中央銀行による政策転換までは見込めない」と予想。それでも「景気が悪化し追加緩和が必要だとの議論が高まった場合、マイナス金利の深掘りが本当に最適かどうかの議論は起きやすくなるかもしれない」と話していた。
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