日経QUICKニュース(NQN)=田中俊行
年始に起きたショックが師走に再来――。16日の東証マザーズ市場でサンバイオ(4592)に売りが殺到している。再生細胞薬「SB623」に関する2つの発表がネガティブ・サプライズと受け止められた。今年1月には治験失敗を受けて急落し東証マザーズ指数を下押しただけに、今回も投資家心理に悪影響を与えかねないと警戒する声が出ている。
サンバイオの新薬候補「SB623」は外傷性脳損傷と慢性期脳梗塞の2つの疾患を対象とした開発が進んでいる。外傷性脳損傷については、4月に厚生労働省が、9月に米食品医薬品局(FDA)がそれぞれ優先審査の対象に指定したと発表し早期承認の期待が高まっていた。
期待が募り次の手掛かりを待っていた投資家にとって、13日の2つの発表は寝耳に水だった。1つ目の悪材料が外傷性脳損傷向けの承認申請の先送りだ。市販後の安定供給に準備が必要として、日本国内での承認申請の時期を2020年1月期(今期)中から21年1月期(来期)中に遅らせた。サンバイオはこれまで「今期に申請に必要な資料提出を終え、21年1月までに販売を始めたい」と説明してきたが、上市が実現しても業績寄与のタイミングは後ズレすることになる。
2つ目は慢性期脳梗塞向けを巡る北米での開発体制見直しだ。14年に大日本住友製薬(4506)と共同開発契約を結んだが、今年1月に臨床試験で主要評価項目を達成できなかったと公表。結局、両社は13日に契約解消しサンバイオは自社開発を続ける方針を示した。SMBC日興証券の田中智大アナリストは同日付のリポートで「大日本住友が開発中止の意思決定をしている以上は(慢性期脳梗塞向けに対する)期待感が剥がれていく」と指摘する。
SBIジャパンネクスト証券が運営する私設取引システム(PTS)では、前週末13日夕に同日東証終値を17%下回る3445円。週明け16日の午前中も制限値幅の下限(ストップ安水準)にあたる同じく3445円の売り気配のまま値段がつかなかった。大日本住友サンバイオ株を約5%保有する大株主だ。大日本住友は「現時点でサンバイオ株を売却する予定はない」と説明するが、「相乗効果がないと判断し、いずれ資本関係も解消する可能性は否定できない」(国内証券の株式トレーダー)との懸念はくすぶる。
今年のサンバイオ株の推移を振り返ると、1月21日に1万2730円の上場来高値を付けた後、慢性期脳梗塞の治験失敗で2月に年初来安値となる2401円までつるべ落とし。時価総額は同期間で約6300億円から約1200億円まで急減し、東証マザーズ指数の低下にもつながり「厚生労働省」と呼ばれたのは記憶に新しい。今回浮上した2つの悪材料はサンバイオ株主や新興株を手掛ける投資家にとって、今年2度目の衝撃といえる。
サンバイオ株急落がマザーズ市場に与える「震度」はどの程度の大きさか。仮にサンバイオがストップ安水準まで下げると、マザーズ指数を1銘柄で7ポイント程度押し下げる。他の採用銘柄が横ばいだったと仮定すれば、マザーズ指数は前週末比で1%安になる計算だ。
マザーズ指数採用銘柄を合計した時価総額に占めるサンバイオの割合は13日時点で約5%と、そーせいグループ(4565)、メルカリ(4385)に次いで3番目に高い。1月のショック直前と比べると指数への影響力が下がったとはいえ、主力銘柄であることに変わりない。師走の新規株式公開(IPO)ラッシュのなかで浮上した主力株のネガティブ材料は、新興株市場に冷や水を浴びせそうだ。
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