日経QUICKニュース(NQN)=井田正利、写真=Lisa Maree Williams/Getty Images
外国為替市場でオーストラリア(豪)ドルに対する投資家の視線が厳しい。対円は円安・米ドル高につられて年初の安値に比べればだいぶ戻しているが、対米ドルでは約1カ月ぶりの安値圏で推移している。豪中央銀行の積極的な金融緩和政策により「低金利通貨」のイメージが定着しつつあるのに加え、中国を起点とした新型コロナウイルスによる肺炎が観光や資源輸出入の面で中国経済との関係が深い豪景気に影を落としかねないとの懸念を誘っている。
中国経済の変調が豪景気に影
22日の東京市場で豪ドルの対米ドル相場は一時1豪ドル=0.6827米ドル近辺まで下落。昨年12月11日以来の豪ドル安水準となった。日経平均株価の上昇やアジア株相場の底堅さを背景にその後は下げ渋ったが、かつてリスクオン(選好)の際によく買われる通貨としてまず名前が挙がっていた豪ドルらしさは感じられない。
対米ドルで1カ月ぶり安値圏に
豪ドルがリスクオン時に上昇する通貨として名をはせたのは2008年の「リーマン・ショック」の前、資源価格の上昇や相対的に高い政策金利がマネーを引き寄せていたころだ。それも今は昔。豪中銀は国内景気の減速を背景にここ数年利下げを繰り返し、引き締めを積極的に検討する局面は特に訪れなかった。一方で米国は金利を引き上げられる機会が数回あった。「対米ドルでの利息収益は逆ざやになり、対円でも金利の面で豪ドルを選ぶ理由はなく、買われにくい」(野村証券の宮入祐輔氏)状況になっている。
森林火災で消費者心理も悪化
それでもリスクオンで豪ドル買いが入るのは中国経済への楽観論が残っているからだ。だが17日発表の中国の19年の国内総生産(GDP)成長率は前年比6.1%と90年以来29年ぶりの低い水準に沈み、足元では新型肺炎のダメージがどの程度なのかはっきりしない。市場からは「中国経済の回復が見通せないことは豪ドルの下押し材料」(マネースクエアの八代和也氏)との声が聞かれる。
国内で続く森林火災は消費者心理に悪影響を及ぼし始めている。豪大手銀のウエストパック銀行が22日に発表した1月の消費者信頼感指数は93.4と、2019年12月から悪化した。ウエストパックのチーフエコノミスト、ビル・エバンス氏は「大規模な森林火災が広がるなかで指数が悪化した」と明言している。
マネースクエアの八代氏は「2月以降は豪中銀のさらなる利下げも予想される。豪ドル高は当面考えづらい」と指摘する。低金利と低成長が豪ドルの足かせになる構図は長期化しそうだ。
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