下期業績回復シナリオが期待されていた日本株だが、新型肺炎の世界的な拡大で雲行きが怪しくなってきた。主要企業の業績予想の変化を示すQUICKコンセンサスDI(QCDI)は、1月末時点で金融を含む全産業ベースがマイナス21と前月から1ポイント悪化し、大和証券による2020年1月のTOPIXの今期リビジョン・インデックスも12月のマイナス11.5%からマイナス13.8%に悪化した。また足元でピークを迎えている19年4~12月期決算発表は当初期待されていたほど芳しくはない状況で、見通しにはさらなる下方圧力をはらむ。とは言え予想される影響は限定的で、期待された業績相場入りも新型肺炎の感染拡大の峠を超えるまでの辛抱と言えそうだ。
■「小売り」の業績見通しに冷え込み
大和証券による20年1月のTOPIXの今期リビジョン・インデックスはマイナス13.8%と19年12月末のマイナス11.5%から小幅に低下し、2カ月連続でマイナス幅が拡大した。セクター別では内需やディフェンシブが低下し、業種別では電力・ガス、小売り、建設・資材、鉄鋼・非鉄が下位に並んだ。QCDIでも「小売り」がマイナス25と前回のマイナス4から急拡大した。
三菱UFJモルガン・スタンレーの斎藤勉シニア・ストラテジストは「小売業は、人手不足の中、昨年10月以降に最低賃金の引き上げもあり、コストが利益を圧迫した。また消費増税による消費意欲の冷え込みも懸念される。キャッシュレス決済によるポイント還元策も、対象は中小の店舗や、個人事業主らが営むコンビニなどのフランチャイズ店で、対象に漏れた大手は、自己負担で独自のキャッシュレス決済によるポイント還元策を打ち出す企業も多い。小売り企業の中でも優等生とされるアジア展開に成功していた企業も、韓国の不買の運動や香港デモのおありを受けた」と指摘した。企業が新型肺炎による影響を業績見通しに反映させるのはこれからで、今後はさらなる下押しが想定されるという。
■期待ほど伸びない上方修正率
また足元では東証1部上場3月期企業の19年4~12月期の決算発表が先週末時点で約3分の1を消化したが、想定よりも芳しくない状況だ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券によれば、決算発表前(12月末時点)と決算発表後の通期会社予想経常利益率を比較すると、全産業で予想を修正した企業のうち、上方修正の比率は43%に留まり、下方修正は57%となった。ヒストリカルに見て極端に上方修正比率が低いわけではないにしても、従前は下期業績回復シナリオが期待されていただけに、実体はそこまで強くないと指摘した。大和証券の阿部健司チーフストラテジストは4日付リポートで「10~12月期決算では製造業を中心に業績回復が想定よりも鈍いとの印象であり、また中国の新型肺炎の感染拡大により今後、経済活動が一時的に停滞する公算が高まっている。企業業績予想は当面、下方修正優位の状況が続こう」との見解を示した。
■コロナショックの影響は大きくない?
ただし新型肺炎が世界経済や企業業績に与える影響が大きいとする見方はそう多くない。世界経済への影響は20年通年ではわずかな下押しに留まるとする見方や、世界の基調的な成長率は底入れしており、貿易戦争による圧迫の後退とこれまでの金融緩和を反映して今後成長率が上昇するとの予想が新型コロナウイルスの感染拡大により変わることはないとの見方も多い。あるストラテジストは「ウイルスの拡散が永続的なものでもなければ、棚上げされた消費や生産は消失するのではなく復元すると考えられ、消費や生産が落ち込んだ間に下落した株価も復調する」と指摘した。
また「新型コロナウィルスの感染拡大に目途が見えるまでは、日本株は上値が重い展開でしょうが、後から振り返ってみれば、買い場だったなんてこともあり得ます。3月期決算企業の業績は事前想定より悪くなりそうですが、ネガティブサプライズというほどではありません。じっくりと買いのタイミングを探りたいと思います」(ファンドマネージャー)との声もあり、業績相場入りも遠のいたとは言え、新型肺炎の感染拡大の峠を超えるまでの辛抱と言えそうだ。
※QUICKコンセンサスDI(QCDI)はアナリストが予想連結純利益を3カ月前時点に比べて3%以上上方修正した銘柄を「強気」、下方修正した銘柄を「弱気」と定義。「強気」銘柄が全体に占める比率から、「弱気」銘柄の比率を差し引いて算出したリビジョンインデックスである。5社以上のアナリストが業績を予想する銘柄を対象とすることで主要企業の業績に対する市場の期待値が上向きか下向きかを判断することができる。対象となる業績予想は、月末時点から数えて3四半期(9カ月)程度先が期末となる決算期。3月期決算銘柄の場合、12月末(翌年1月発表)から来期予想に切り替わる。
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