「これからの25年間の世界経済や市場はどうなるか」ーー。日経QUICKニュース社(NQN)設立25周年を記念した特別インタビューの今回は、リーマン・ショック後の世界経済の構造変化について「ニューノーマル(新常態)」の概念を広めた著名エコノミスト、モハメド・エラリアン氏。書面で回答した同氏はテクノロジーや気候変動、人口動態の変化が世界的な景気後退や政治システムの信用失墜を招きかねないと警鐘を鳴らす。
NQNニューヨーク 横内理恵
【3つのポイント】①テクノロジー、気候変動、人口構成の変化が景気後退や政治の信用失墜を招く可能性②金融緩和に依存しない成長政策への移行が必要③過剰な金融緩和の副作用で、局地的な流動性枯渇リスクが浮上 |
経済は幅広く恩恵が行き渡るように成長すべき
――今後の25年程度を見越して、世界経済や金融市場にどんな変化が起こりうるとみていますか。
「25年という長いスパンに経済や金融に起こることを予測するのは非常に難しい。ただ、その中でも人工知能(AI)やビッグデータといったテクノロジー、気候変動、人口構成の変化が経済や金融市場に大きな影響を与えるのは疑いの余地がない。破壊的ともいえるパラダイムシフト(枠組みの転換)が起きる可能性がある。それが一段の貧富の格差拡大を生み、世界的な景気後退や政治システムの信頼失墜といった事態を招きかねない」
――貧富の格差拡大は欧米でポピュリズム(大衆迎合主義)を招き、社会を不安定化させています。どのような政策対応が望まれますか。
「恩恵が幅広く行き渡るように経済が成長しなくてはならない。政府はインフラの近代化や労働者の再教育を通じ、生産性を引き上げる改革に取り組むべきだ。ドイツなどには財政支出拡大の余地があるし、欧州は地域経済の基盤強化が必要だ。現在の景気対策は各国とも金融緩和に頼りすぎている」
金利急騰のレポ取引市場に危険なシグナル
――金融緩和への依存は何が問題なのでしょうか。
「政府の成長政策の不足を補うため、中央銀行は極端な緩和政策を取らざるをえなくなっている。(金融資産価格のゆがみなど)緩和の副作用や、予測不可能な事態に対処するため、歯止めのきかない緩和を迫られる可能性がある。とはいえ金融政策を正常化しようとすると金融市場を混乱させかねない。中銀は非常に難しい立場に置かれている」
「信用力の低いプレーヤーにまで金融システムが許容できる以上の流動性が供給されている。何らかのショックで局地的に流動性が枯渇する事態に注意する必要があり、すでに(国債などを担保に短期資金を融通する)レポ取引市場などではその兆しが表れている。突如として金融システムが機能不全に陥った08年の金融危機ほどの大きなダメージはなくても、実体経済に影響する可能性がある」
モハメド・エラリアン氏
独保険大手アリアンツのチーフ・エコノミック・アドバイザー。米債券運用大手ピムコの最高経営責任者(CEO)などを経て現職。2008年の金融危機を予測したことで知られる。英ケンブリッジ大学クイーンズカレッジの次期学長に選出され、20年10月に就任予定。
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