日経QUICKニュース(NQN)=岩本貴子
新型肺炎の感染が急速に拡大し、世界景気の先行き懸念が安全資産とされる米国債への資金流入を一段と加速させている。24日の米債券市場で長期金利の指標となる10年債利回りは急低下(価格は上昇)し、一時1.35%と2016年夏の過去最低水準である1.32%に迫った。
市場、年末までの利下げ織り込みは90%超に
投資家の資金が安全資産に一斉に向かったきっかけは、韓国やイタリア、イランでの感染者数や死者数の増加だ。感染拡大がアジア圏以外にも広がったことで、世界的な製造業の供給網に影響し、経済活動が停滞するとの見方につながった。30年債利回りは前週末に続いて最低を更新し、債券市場への資金流入が鮮明になっている。
「米国債のバリュエーション(投資尺度)は歴史的に見て高い水準にある」(JPモルガン)ものの、債券買いがやむ気配は乏しい。ネッド・デイビス・リサーチによると、債券の投資信託や上場投資信託(ETF)への資金流入は今年に入って14日までに1040億ドルと6週間の流入額としては過去最高になった。担当のストラテジストは「新型肺炎と景気への懸念が買いを加速させている」と分析した。
米連邦準備理事会(FRB)が利下げに動くとの思惑も一段と強まっている。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が算出する「フェドウオッチ」によると、20年末までの利下げ確率は24日時点で90%を超えた。新型肺炎の感染拡大の影響が実体経済に影響すれば「FRBは利下げ方向への政策見直しを迫られる」(ソシエテ・ジェネラル)との見方が多いためだ。
政府は「ファンダメンタルズを反映してない」と言うが
米国家経済会議のクドロー委員長は前週の米CNBCのインタビューで「金利低下は米経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を反映していない」と述べた。景気に強気なトランプ米政権の幹部は急速な金利低下をけん制するが、いったん加速したリスク回避の動きが緩む気配は乏しい。
米国債は主要国の国債の中でも相対的に利回りが高く、「質への逃避」が起こると買われやすい。「短期的に新型肺炎を取り巻く状況が完全に解決すると考えるのは難しく、改善に向かう前に一段と悪化する可能性もある」(BMOキャピタル・マーケッツのイアン・リンジェン氏)との警戒感は根強く、米国債が逃避資金の受け皿となる傾向は続きそうだ。
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