QUICK Market Eyes=片平正二
27日の米国史以上でダウ工業株30種平均は大幅に6日続落して1190ドル95セント(4.41%)安の2万5766ドル64セントで終えた。下落幅は2018年2月5日(1175ドル21セント安)を上回って過去最大となった。史上最高値から12.80%下げ、高値から10%超下げたことで調整局面入りとなった。恐怖指数のVIX(注1)は42.08%高の39.16で急伸し、2018年2月9日以来、2年ぶりの高水準に達した。当時は米長期金利の上昇に端を発したVIXショックで相場が大荒れとなり、VIXは50.30まで上昇した経緯がある。もう一段の上昇余地があることから、神経質な状況は続きそうだ。
市場からは「新型コロナは見えない敵ですから、いつ落ち着きを取り戻せるのか判断は難しい」(国内証券)との声や、「相場の急変を受けて売りたくない投資家も売らざるを得ないのでは? 昨年度の3月の月中平均(2万1414円)で買い支えが出てこないとマズイですよね」(邦銀)と、3月期末に向けて弱い展開が続くことを警戒する声が出ていた。中長期的にみれば日経平均株価の株価純資産倍率(PBR(注2))1倍の2万705円が接近したことで買い場到来と言えそうだが、新年度入り後の相場展開、運用戦略も立てづらい状況下、落ちてくるナイフをつかみに行くにはまだアク抜け感はなさそうだ。
■売り圧力はピーク?
一方で、世界同時株安の流れを強めた米株については需給的な売り圧力がピークを過ぎたとの見方がある。JPモルガンは27日付の米国株戦略のリポートで「S&P500の2020年の目標水準を3400で維持する」との見解を示した。米国がほぼ完全雇用の状態で、壮年層の労働参加率が上昇している時に米連邦準備理事会(FRB)が利下げを行う可能性がある場合、「COVID-19の影響が弱まり、刺激策が残ると経済はさらに過熱する可能性がある。さらに世論調査では依然としてトランプ大統領を支持しているが、民主党全国大会の指名を前にしても進歩的な候補の可能性が高まっていることを市場は評価している。このことを念頭に置いて、現在の株安は一時的なものだ」と指摘した。
■CTAのポジションにも関心
また足元の株安については「21日以降、我々は商品投資顧問業者(CTA)やボラティリティ・ターゲティングなどのシステマティックな戦略とオプション・ヘッジの売り総額は1500億ドル以下と推定している。システマティック戦略の株式エクスポージャーは、先週の80パーセンタイルから現在は40パーセンタイルに低下しており、売り圧力は緩和し始めているようである」と指摘。「オプションでヘッジをしている投資家はかなりの量の株式を購入する必要があり、市場のスクイーズを引き起こす可能性がある」とも指摘し、月末のリバランスなどの動向次第では「1~2%の株価上昇圧力となり、それ以上、大きく悪化することはないとみている」とみていた。
■「バーニー優勢」も影響
そもそも、足元のVIX急騰は相場の大幅安がトリガーとなった訳だが、3月3日のスーパーチューズデー(注3)を前に米大統領選挙の民主党候補者争いで左派のバーニー・サンダース上院議員が優勢なことも影響していることが考えられそう。VIX先物をみると、大統領選挙の直前の10月限の価格が足元で上昇基調にあった。ゴールドマン・サックスは27日付のリポートで「VIX先物は2020年の大統領選挙でマーケとが2012年や2016年よりも大きく動くことを示唆している」としながら、スーパーチューズデー後のS&P500オプションのアット・ザ・マネー(注4)(ATM)のストラドルOP(注5)が135bpとやや高いことも指摘。「短期的な選挙リスクは、高いオプション価格にもかかわらず過小評価されていると考える」とし、新型コロナ以外の民主党の候補者争いが市場に悪影響を与えている可能性に着目していた。
▼VIX(恐怖指数)とは(注1)
シカゴ・オプション取引所(CBOE)が、S&P500を対象とするオプション取引のボラティリティを元に算出、公表している指数で英語では「investor fear gauge」、別名Volatility Index(略称:VIX)と呼ばれているもの。 将来の投資家心理を示す数値として利用されており、一般的にVIXの数値が高いほど投資家が相場の先行きに不透明感を持っているとされている。 通常は、10から20の間で推移することが多いが、相場の先行きに大きな不安が生じた時には、この数値が大きく上昇するという傾向がある。(「金融用語集」より)
▼PBRとは(注2)
Price Book-value Ratioの略称で和訳は株価純資産倍率。PBRは、当該企業について市場が評価した値段(時価総額)が、会計上の解散価値である純資産(株主資本)の何倍であるかを表す指標であり、株価を一株当たり純資産(BPS)で割ることで算出できる。PBRは、分母が純資産であるため、企業の短期的な株価変動に対する投資尺度になりにくく、また、将来の利益成長力も反映しにくいため、単独の投資尺度とするには問題が多い。ただし、一般的にはPBR水準1倍が株価の下限であると考えられるため、下値を推定する上では効果がある。更に、PER(株価収益率)が異常値になった場合の補完的な尺度としても有効である。 なお、一株当たり純資産(BPS)は純資産(株主資本)を発行済株式数で割って求める。以前は「自社株を含めた発行済株式数」で計算していたが、「自社株を除く発行済株式数」で計算する方法が主流になりつつある。企業の株主還元策として自社株を買い消却する動きが拡大しており、より実態に近い投資指標にするための措置である。(「金融用語集」より)
▼スーパーチューズデーとは(注3)
4年に1度行われる米国大統領選挙で、民主・共和両党の候補者指名のため州ごとに実施する予備選挙・党員集会が集中して行われる2月または3月の上旬の火曜日のこと。最終候補者の選定に大きな影響を与えるため、「スーパーチューズデー(決戦の火曜日)と呼ばれている。(「金融用語集」より)
▼アット・ザ・マネーとは(注4)
オプション取引において、オプション取引の権利所有者が権利行使した場合に、利益がゼロの状態をいう。コール(購入)オプション、プット(売却)オプションともに原資産価格と行使価格が等しい状態。(「金融用語集」より)
▼ストラドルは(注5)
同じ限月で同じ権利行使価格のコール・オプション(コール)とプット・オプション(プット)を組み合わせることで得られるポジション。 同じ権利行使価格のコールとプットを同数買うことで得られるポジションはロング・ストラドルと呼ばれ、一般的には、原資産価格が大きく上昇するか下落すると予想でき、かつどちらに動くか分からない局面に有効とされている。 一方、同じ権利行使価格のコールとプットを同数売ることで得られるポジションはショート・ストラドルと呼ばれ、一般的には、原資産価格が狭い範囲でしか変動しないと予想できる局面で有効とされている。(「金融用語集」より)
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