証券アナリスト 三浦毅司(日本知財総合研究所)
2月26日、パナソニックはテスラと共同で行っていた米バッファロー工場での太陽電池のセルやモジュールの生産を停止すると発表した。パナソニックはテスラに対し、電気自動車(EV)に使われるリチウム電池(LiB)と太陽光発電に使われる太陽電池セル・モジュールを供給してきたが、今後は車載用電池の供給に特化する。パナソニックの決断の背景には何があるのか。知財の側面から検証する。
■太陽電池パネルは儲からない
先進国では太陽電池パネルの設置がすでに終わっている。途上国での設置が進んで全体では市場は拡大しているが、中国製を中心に価格下落が激しく、日本企業にとってはマージンが確保しにくくなっている。
これに対して車載用LiBの市場は拡大が続いている。特にEVの増加に伴い、今後も着実な成長が見込まれる。現在も技術開発が進んでいる領域で、比較的マージンを確保しやすい面もある。
車載用LiBは拡大基調が続く
矢野経済研究所のプレスリリース「2020年の車載用リチウムイオン電池(LiB)世界出荷容量は200GWhを超えると予測」を基に日本知財総合研究所作成
■技術開発も特許出願もピークアウト
太陽光発電に使用される太陽電池パネルに関する特許出願は概ねピークアウトしており、技術的にも安定期に入ったといってよい。光から電気への変換効率の改善や、温度変化への抵抗力など改善の余地はあるが、企業の研究開発意欲は減退気味だ。
技術的に安定、価格競争の局面へ
PatentSQUAREにより日本知財総合研究所作成
特許出願がピークアウトし、技術開発が一段落してくると価格競争が始まる。太陽電池パネルは市場そのものが拡大し続けているため、価格を犠牲にして数量・収益を確保するという戦略がとられやすい。太陽電池パネルの価格下落は今後も続き、日本企業の脱落は避けられないとみる。
■出願件数ランキング、上位の背中は遠く
これらの分野におけるパナソニックの位置もかなり違う。太陽電池パネルの特許出願件数は7位だが上位企業からは大きく水をあけられている。これに対し、車載用LiBの出願件数では子会社である三洋電機の特許が貢献しており、合算するとトヨタと並びトップクラスだ。
車載用LiBでは三洋電機という「孝行息子」がいるが……
PatentSQUAREのデータを元に日本知財総合研究所作成
■昨年5月に別会社化し撤退モードに
大きく報じられたテスラとの太陽電池事業の協業からの撤退だが、太陽電池パネルの将来性やパナソニックの競争力からみれば当然の帰結であったと思われる。
同社は2019年5月に、太陽電池事業を別の子会社に切り出して株式の90%を中国のGS-Solar(China) Company Ltdに譲渡する旨の発表を行っていた。その対象には研究開発分野も含まれており、パナソニックにおける太陽電池事業へのコミットメントは着実に弱まることが想定されていた。今回の発表は一連の流れに沿ったもので、構造改革を進めるパナソニックとしては予定通りの動きとみて良いだろう。(2020年3月3日)
日本知財総合研究所 (三浦毅司 takashi.miura@jipri.com 電話080-1335-9189)
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