QUICK Market Eyes=片平正二, 大野弘貴
3日の日経平均株価は反落。一部で「主要7カ国(G7)の財務相・中銀総裁が緊急会議後に発表される声明で協調利下げや財政出動は盛り込まない方向」と報じられ、主要な中央銀行による協調緩和への期待が後退し、下押し要因となった。前日は日銀が想定外のETF購入の増額に踏み切り政策期待が高まっただけに、はしごを外された格好だ。一夜明けストラテジストなどから受け止め方と今後のシナリオ分析が出始めている。
■日銀に考えられる手段は期限付きのETFやREITの買入額引き上げ
三菱UFJモルガン・スタンレー証券は3日付のリポートで「日銀のETF買入れについては、『市場の価格形成を歪める』、『将来の出口戦略が不明』などの副作用が指摘されている。もっとも、新型コロナへの恐怖から株式相場が急落し、それが実体経済や消費者マインド悪化につながっている現状、日銀にとってETF買入れはマイナス金利の深掘りよりも『止血効果』が高い対応と言える」としながら、「目には目を、株には株をと言ったところか」と指摘した。
今後、7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)による政策協調があるのではないかと市場で期待されていることについては「それでも、日銀が何か『協調緩和』に参加せざるを得ない状況となった場合、考えられる手段としては、期限付きのETFやJ-REITの買入額の引き上げ、あるいは企業金融支援を目的とした貸出増加支援資金供給の貸付利率(現行ゼロ%)や共通担保資金供給オペ・固定金利方式(注1)(現行ゼロ%)の時限的な引き下げではないか」と予想した。「こうした措置は、行われたとしても『2%の物価安定の目標達成』とは切り離し、『金融市場の安定化措置』の位置付けになると考えている」とも指摘。足元の景気状況がマイナス金利深掘りには逆風とし、協調利下げではなく、ETFの一時的な増額などの措置を見込んだ。
■マイナス金利深堀りは最終手段、ETF買い入れで積極緩和姿勢を演出か
野村証券は同日付リポートで「日銀は引き続きマイナス金利の“深掘り”を最終手段として温存したいと考えられ、他の手段で積極的姿勢を演出したかった」との見方を示した。その上で、「18~19日に予定されている金融政策決定会合までは、市場の失望を招かないために、ETF買い入れへの積極姿勢を印象付けることも考えられる」と指摘している。
一方、2018年7月にETF買い入れを弾力化させる方針に転じて以降、ETF実質的な買い入れペースを落としていることから「中長期的にETFの買い入れを縮小(テーパリング)したい意向は強い」との見方も示されている。
■日銀ETF買いで、次の一手がマイナス深掘りでない可能性を認識か
大和証券は同日付のリポートで「総裁談話を強い姿勢で実行したことは、信任を高めるとともに、主要中銀のグローバルな政策協調を演出する好手だったと評価できる」と指摘した。その上で2日の日本国債市場で特徴的だった動きとして、総裁談話後にいったん急低下した金利が急速に上昇に転じ、結局前日比プラスで引けたことに着目した。
「いったんは総裁談話を受けて『協調利下げ』を意識したものの、弾力的なETF増額などを受けて、次の一手がマイナス深掘りではない可能性を認識したものとみられる」と指摘。さらに「これは理にかなった動きと考える。というのも、コロナウイルス禍に苛まれる現在、重要なのはクレジット、なかでも中小企業サポートであり、マイナス深掘りがそうした効果をもたらさないことは自明とみられるからだ」と解釈。「むしろ信用収縮の発生により逆噴射する可能性すらある。プラス金利が残り、『利下げ』がクレジット・サポートを提供する米国と日本では、コロナウイルス禍に対する最適な金融緩和手段は異なる」としつつ、「結局、日銀による次の一手が深掘りとならないのであれば、現状のJGBは利食いが正解である」とみていた。
総じて日銀の次の一手がETF購入策を通じて不安定な市場に働きかけようとの解釈といえる。株式市場の需給に大きな影響を与えるだけに引き続き関心が向かいそうだ。
▼共通担保資金供給オペ・固定金利方式とは(注1)
日銀による公開市場操作の手法の1つで、日本銀行に差し入れられた国債、社債、CPなどの日銀適格担保を裏付けとして、民間金融機関に低利の固定金利で一定期間、資金を貸し出す仕組み。通称「新型オペ」とも呼ばれる。 金融緩和の強化を図るため、貸付利率を入札で決める従来の金利入札方式に加え、競争入札しない固定金利での貸付方式として2009年12月から導入された。 貸付の固定金利は原則として誘導目標金利の無担保コールレート(オーバーナイト物)、期間は1年以内と規定されている。(「金融用語集」より)