日経QUICKニュース(NQN)=田中俊行
日銀は16日、前倒しで金融政策決定会合を開き上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)の買い入れ額を増やす追加緩和を決めた。市場では株式需給が引き締まると期待する声がある一方、積極的なリスク資産の買い入れを警戒する声も多い。3月決算期末が近づき、日銀に赤字転落の影が忍び寄る。
年12兆円、「満額回答」の評価もあるが
日銀はETFの保有残高の増加額を年12兆円と、従来の年6兆円から倍増することを決めた。REITも年1800億円増とこれまでの年900億円から増やした。
新型コロナウイルスの感染拡大による市場の混乱に対応する。東海東京調査センターの仙石誠シニアエクイティマーケットアナリストは「新たな目標は市場の予想よりも大きく、海外勢が巨額売りに動いても年間を通してみれば株価を下支えできる規模で満額回答だ」と胸をなで下ろす。
日経平均は3年4カ月ぶり安値に
ところが東京株式市場での、きょうの効果はわずか19分だった。結果発表後の14時9分に上げに転じた日経平均株価は一時、上げ幅を300円あまりに広げたが、日銀公表資料の細則では、「原則的な買い入れ方針は引き続き年6兆円」ともしたため、市場は「12兆円は見せ金」と判断。徐々に取り組み姿勢への失望感が広がった。日経平均は下げ幅が一時500円を超え、大引けは1万7002円と約3年4カ月ぶりの安値に沈んだ。
リスク資産であるETFの購入増には負の側面があるとの声も多い。慎重派が指摘するのが日銀の財務悪化シナリオだ。QUICKの推計によると日銀のETF買い入れ累計額は3月13日時点で29兆9400億円だ。黒田東彦総裁は10日の参院財政金融委員会で損益分岐点(簿価)を、日経平均換算で1万9500円程度と明らかにした。
日銀は保有ETFの時価が簿価を下回る場合、差額を引当金として計上し、さらに時価が著しく下落した際は減損処理を実施するとみられる。そうなれば当然、日銀の損益計算書にも影響する。
1万8000円なら引当金2兆円規模
日銀の19年3月期の経常利益は2兆円だった。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは日経平均が損益分岐点の1万9500円から約7%超下落すると、引当金の規模が2兆円を超えると試算する。その水準はおおむね1万8000円。きょうの終値だと、すでに経常赤字に転落している計算になる。
野村総研の木内氏は「日銀の財務悪化は金融政策の信認低下につながる可能性がある」と指摘。「経常赤字となり国庫納付金が減れば相対的に国民負担が増えることになり日銀に対する政治面での批判が強まり、将来的に金融政策の自由度が低下しかねない」とも話す。
米連邦準備理事会(FRB)が15日、今月2度目の緊急利下げに踏み切るなど主要中銀が協調する姿は印象的だったが、打てる手はどんどんなくなっている。
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