NQN香港=桶本典子
東京五輪・パラリンピックが1年間の延期となった。新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう現状では致し方ない措置とはいえ、国際的な大型イベントの日程変更の影響は当然ながら日本国内にとどまらない。アジア企業への影響を探ってみた。
■「変更は怖くない」
国際オリンピック委員会(IOC)は3月30日、臨時理事会を開き、東京五輪を2021年7月23日開幕・8月8日閉幕とする新たな日程を承認した。東京五輪には数多くのアジア企業が直接、間接を問わず関わる。サムスン電子や中国電子商取引(EC)最大手アリババ集団は、IOCと直接の契約を結ぶ最高位パートナーの「ワールドワイドオリンピックパートナー」企業。両社は3月24日に「1年程度の延期」が発表された直後、それぞれ「決定を受け入れ五輪を支援し続ける」姿勢を示したと伝わった。
延期後の開催に前向き姿勢を示す企業は他にもある。香港日清は3月25日、香港のオリンピック委員会のパートナー企業になったと発表し、資料に「イベント変更は怖くない、ラーメンを食べて待とう」と鼓舞する漫画を掲載した。
■株価はネガティブな反応
しかし、延期は足元の関連企業の株価にとって悪材料に変わりはない。中国の旅行社である凱撤同盛発展は、中国オリンピック委員会(COC)が委任する五輪チケットの中国での代理販売業者。チケット販売のほか、五輪の試合観戦を組み込んだツアーなども手がける。株価は延期観測が強まった3月23日から下落基調を強め、年初来安値圏で推移している。中国国際航空をはじめとする空運企業は、新型肺炎の拡大で世界規模での減便や運休が相次ぐなか、延期決定は弱り目にたたり目の材料となった。
スポーツ用品業界にも落胆は広がる。宝成実業をはじめとする台湾のアパレルメーカーは、米ナイキや米アディダスなどのスポーツ用品メーカーの下請けが多く、延期発表後の株価には上値の重さが目立つ。台湾では自転車を生産する美利達工業が3月23日に年初来安値を付けるなど、幅広く影響が出た。
もちろん「中止ではなく延期なのだから、恩恵は先延ばしされただけ」(光大新鴻基の温傑ストラテジスト)との声は多い。しかし「来年の時点で新型コロナの感染が完全に収束しているとは限らない。五輪を開催したとしても、世界経済が弱っていれば当初の想定ほど盛り上がらない恐れもある」(金利豊証券の研究部執行董事の黄徳几氏)との懸念もある。日程発表で一息ついたとは言え、不確定要素はなお多く、アジアでも関連企業はひそかにため息をついている。