日経QUICKニュース(NQN)=田中俊行
東京株式市場で不動産株が軟調だ。新型コロナウイルスの感染拡大でテナントから得る賃料収入が減るとの警戒感が根強いためだ。2020年に開催予定だった東京五輪を21年7月に延期したことで、将来的な不動産価格の下落につながるとの懸念も意識されている。
■市場をアンダーパフォーム
業種別TOPIXの「不動産」は昨年末からで26.4%下落した。同期間の東証株価指数(TOPIX)が17.2%安だったのと比べると、不動産株の低調さは際立っている。個別でも住友不動産(8830)が32.1%安、三井不動産(8801)が27.0%安、三菱地所(8802)が17.5%安と、軒並み株価指数を超える下げを記録している。世界的なリスクオフに加え、米国を中心とする財政出動で国債発行が増え金利上昇懸念が浮上。他業種に比べて財務レバレッジが高いとされる不動産株を売る動きが世界で加速し、日本の不動産株もあおりを受けた。

※不動産株はTOPIXを下回って推移してる
■コロナの打撃
コロナ・ショックで不動産株の売りを促したもう一つの要因はファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化リスクだ。野村証券の福島大輔シニアアナリストは「ホテルや時間貸し会議室など賃貸契約期間が短いアセットの収益悪化や、外出自粛の悪影響を受ける商業施設の賃料収入の減少が今後見込まれる」と指摘する。
大手不動産株のなかでも、三井不は商業施設が減速する影響を受けやすいとの指摘が多い。同社の2019年3月期の賃貸事業の営業収益は6032億円。そのうち商業施設からの収入は2383億円と約40%を占める。モルガン・スタンレーMUFG証券の竹村淳郎アナリストは7日付リポートで「賃貸事業の収入に占める緊急事態宣言の対象となる7都府県の商業施設の比率を試算すると、三井不が22%と大きい」と指摘。菱地所は6%、住友不は1%程度にとどまるとしている。
■五輪延期のWショック
新型コロナだけでなく、東京五輪の延期もリスク要因だ。選手村を活用する分譲マンション「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」。三井不動産レジデンシャルなどが販売を手掛けるが、五輪延期に伴い23年春としていた引き渡しのタイミングが後ズレする可能性が高まっている。野村証券の福島氏は「入居までの期間が長引き景気や金利変動リスクが強まるのを嫌い、販売が鈍るかもしれない」と話す。供給は分譲だけで4000戸を超えるため「他の新築マンション価格にも波及し、全体的に値崩れする展開も想定される」(福島氏)
三井不や住友不、東急不動産ホールディングス(3289)のPBR(株価純資産倍率)は1倍を割れており、割安感があるとして押し目買いの機会をうかがう投資家もいる。とはいえ経済活動の停滞が長期化すれば不動産市況そのものに悪影響を及ぼすかもしれない――。不動産株買い控えのムードは当面続きそうだ。