NQNニューヨーク=戸部実華
「動画配信の雄」が市場で高まる成長期待に見事に応えてみせた。ネットフリックスが21日夕に発表した2020年1~3月期決算で、世界の有料契約者数の伸びが過去最大となった。自宅でサービスを利用する「巣ごもり消費」が追い風になると市場も期待していたが、実態は市場予想を大幅に上回った。
■有料契約者は1577万人増で株価は一時11%上昇
「多くの国で外出規制が発動された3月から加入が増えた」(発表資料)。有料契約者数は世界で1577万人増え、QUICK・ファクトセットがまとめた市場予想(822万人増)の2倍近くに達した。決算前からアナリストが軒並み目標株価を引き上げ、株価は21日までに年初来で34%上げていた。好業績はある程度織り込み済みだったが、それでも決算発表直後は時間外取引で株価は一時11%あまり上昇した。
■「契約者数の伸びも減速するだろう」
ただ、買い一巡後は急速に上げ幅を縮め、小幅安に転じる場面もあった。投資家が気に留めたのは発表資料にあった以下のくだりだ。「自宅に閉じこもる状況が終われば視聴時間は減り、契約者数の伸びも減速するだろう。その時は近い」。急激な契約者数の伸びは一時的であり、長くは続くかないと正直に明かした。まるで過熱気味の市場の期待をなだめるかのようだ。
契約者数の伸びに比べ、売上高と利益の成長が弱めだったことも売りを誘った。売上高は前年同期比28%増の57億6769万ドルと市場予想(57億5100万ドル)を小幅に上回っただけで、純利益は2.1倍の7億906万ドルで市場予想(7億5300万ドル)に届かなかった。ドル高が海外売上高の伸びを抑えたうえ、新型コロナウイルスの感染拡大でコンテンツ制作の一時停止を余儀なくされ、追加コストが生じたという。
4~6月期の有料契約者数は世界で750万人増の見通しで、会社が指摘する通り1~3月期から大きく減速する。もっとも、前年同期(270万人)からは大幅な伸びで成長に陰りが出るわけではない。
■「生活必需品としての需要が業績を支える」
ウォルト・ディズニーやアップルなどライバルの相次ぐ参入で動画配信市場は競争激化が懸念されていたが、新型コロナのまん延で事業環境は変化している。映画館の閉鎖や、従来型テレビの強みであるスポーツ中継の中止などが契約者数の増加につながった。さらに消費者が所得減少で割高なCATV契約を切って、低価格の動画配信へ切り替える動きも加速している。「外出制限の解除後も、生活必需品としての需要が業績を支える」(バンク・オブ・アメリカ)との指摘もある。
■豊富なコンテンツで有利
ネットフリックス独自の強みも評価されている。収益を広告に頼らず、業績が景気変動の影響を受けにくい。動画配信に特化し、ディズニーのテーマパークのような不振事業を抱えていない。動画配信市場の成長という追い風をフルに受けられる。
ピボタル・リサーチ・グループは「ネットフリックスのコンテンツ投資規模に張り合えるライバルは非常に少なく、世界的に優位性を維持する」と分析する。視聴時間の増加で「契約者は人気作品以外にも新しいコンテンツを発見している」(レイモンド・ジェームス)といい、豊富なコンテンツをそろえるネットフリックスは有利という。
外出規制によるコンテンツ制作への影響は気がかりだが、それはCATVや動画配信の競合相手にも共通する。ネットフリックスは「4~6月期に予定されるすべての番組や映画を配信する」としている。逆境を追い風とした同社の成長の勢いはしばらく続き、市場の期待は簡単には崩れそうにない。
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