NQNシンガポール=今晶
外国為替市場でアジア通貨が微妙な均衡を保っている。相対的に経済基盤が弱い新興国は新型コロナウイルス問題の打撃が大きいとみられているものの、米国などの主要国の株価が崩れていないので、リスクを避けるために新興国からお金を逃がす動きは活発にはなりにくい。短期スタンスの投機筋は、売買材料があり、参加者も多く市場の厚いユーロにもっぱら視線を向けている。
■「アジアは市場参加者にあまり偏りがない」
6日の外為市場ではトルコリラが対円で1リラ=14円台と過去最安値を更新した。アジア通貨にも売りは出ているが、マレーシアリンギは対米ドルで1米ドル=4.3リンギ台、インドネシアルピアは1ドル=1万5000ルピアをやや下回る水準と3月の直近安値(4.4リンギ台と1万6000ルピア台)にはそれなりの距離がある。
新興国の通貨は良くも悪くも欧米の株式相場の影響を受ける。国際分散運用をする年金などの長期マネーは資産配分の比率を簡単には変えられない。欧米株が底堅さを維持すれば新興国などの株やリスク資産もすぐには手放さない。
しかも「アジアは市場参加者にあまり偏りがない」(欧州系ヘッジファンドのマネジャー)状況だ。トルコのように国民のリラ売り・米ドル買いの需要が常態化し、リラの買い手が日本の個人などに偏りがちなわけではない。売りを仕掛けるには材料不足の面が強い。
ただでさえアジアの通貨は種類が多く、為替取引の規模は新興国の中では小さい。ビッグデータの分析により確率の高い戦略を選び、高速コンピューターで巨額の資金を振り回す手法がメインとなったファンド勢にとっては割に合わなくなっている。
■「まだ無理はしない」
そんな中でドイツの連邦憲法裁判所が先日、欧州中央銀行(ECB)の量的緩和政策の一部が違憲だと判断し、ユーロを売る格好の口実を与えた。ユーロがアジアの通貨に対しても売られ、対米ドルの相場を支えている。
長い目で見てアジア通貨は上がるか下がるかを問われれば下がると答える参加者のほうがおそらく多いだろう。例えば、シンガポールのオーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)は株価の安定に伴う韓国やインドネシアなどの投資環境の改善を指摘しながらも、通貨の過大評価と将来の相場下落リスクに警鐘を鳴らす。だが投機筋の姿勢は「まだ無理はしない」。率先してアジア通貨を売るつもりはないとの空気が漂っている。
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