NQNニューヨーク=張間正義
コンピューターを使った高頻度取引(HFT)大手の米バーチュ・ファイナンシャルが大荒れ相場で強さをみせつけた。新型コロナウイルスの影響で米株式市場が乱高下した2020年1~3月期決算は過去最高益となった。相場の変動率が高まればHFTの追い風になることが証明された形だ。
■「あらゆる市場環境での我々のビジネスモデルの強さを示した」
バーチュが7日朝に発表した1~3月期決算の最終損益は3億8823万ドルの黒字(前年同期は1361万ドルの赤字)だった。主業務である売り買い両方の注文を出し、市場に流動性を供給するマーケットメーク(値付け)にかかわるトレーディング収益は3倍に膨らんだ。ダグラス・シフ最高経営責任者(CEO)は「あらゆる市場環境での我々のビジネスモデルの強さを示した」と自負する。世界的な株式市場の変動率の高まりで、自ら提示する売値と買値の差(スプレッド)が広がり、利益が大きくなった。
好業績への期待からバーチュ株の年初来の上昇率は5月6日時点で57%と、12%安に沈むS&P500種株価指数をはるかに上回る。相場が荒れた3月にはJPモルガン・チェースが米株式相場を「バーチュ・マーケット」と称賛していたほどだ。同じHFTでオランダに本社があるフロー・トレーダーズも1~3月期は好決算を発表。年初からの株価上昇率は40%を超える。
■東証の売買代金の半分をHFTが占めている
HFTは大荒れ相場でも果敢にリスクを取り、マーケットメークしたことが利益の拡大につながった。バーチュは日本の金融庁にもHFT業務の登録をしている。東京証券取引所が月次で作成している資料では、市場参加者が東証のシステムにサーバーを併設する「コロケーション」を経由した注文の比率は3月に上昇した。コロケーションからの注文ほぼすべてHFTとみられている。
コロケーションの注文比率は3月後半に50%を超えた。その後も50%前後で高止まりしており、東証の売買代金の半分をHFTが占めていることになる。HFTはプログラムから外れるような前例のない相場局面では発注を一時停止するという説があったが、その見方は間違っていたようだ。
通常、HFTは各社とも同じようなビッド(買い)とオファー(売り)の指し値注文を出すため、HFT同士の注文は約定しない。そのため、理論的にコロケーションの比率が50%を超えることはないとされる。だが、今回のコロナショックのように極端に市場参加者が減少し流動性が枯渇した場合、買値と売値のスプレッドが広がり、HFT同士の注文が成立しやすくなり、一時的に比率が50%を超える。08年のリーマン危機や15年の人民元ショックでも同様の現象がみられた。
■追い風がやんだ後は
バーチュの決算は、相場変動率の高まりはHFTに追い風となることを裏付けた。一方、米株式市場は一時に比べ落ち着いてきた。投資家の恐怖心の大きさを示すVIX指数は3月に80台まで上昇したが、足元では30近辺まで低下した。変動率が低下すれば追い風もやむ。
バーチュは独立系の証券会社だったインベストメント・テクノロジー・グループを買収するなど、収益源の多様化を進めている。「相場が荒れなくても安定的に稼げる」とのイメージを作れるかが、コロナ後の収益を占う鍵となる。
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