日経QUICKニュース(NQN)=山田周吾
ニューヨーク原油先物相場が持ち直している。5月に入って、新型コロナウイルスによる需給悪化の懸念が和らぐと、安値で原油を買えるとして投資家からの注文が相次いだ。現在、市場の関心はもっぱら19日に控える期近6月物の最終売買日に向かっている。初のマイナス価格に沈んだ5月物に比べ、上場投資信託(ETF)の投げ売りが和らぐため、6月物がマイナス価格に沈むとの見方は少ない。ただ市場関係者の間では原油相場の急落を警戒すべきだとの見方も根強い。
■WTI、1カ月ぶりの高値に
ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)では、米指標油種であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の期近6月物に買いが入っている。5月物から限月交代した4月22日以降、1バレル20ドルを割り込んだ水準で推移し、4月28日には一時10.07ドルまで売られた。ただ5月になると状況は一変する。上昇基調に転じて、5月7日には一時26.74ドルと期近物として1カ月ぶりの高値に戻した。
潮目が変わった背景には、欧米諸国での経済活動の再開があげられる。4月まで落ち込んでいたエネルギー需要が世界的に持ち直すとの期待が買いを誘っている。5月1日から石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの産油国で構成するOPECプラスが日量970万バレルの減産を実施したことも相場上昇を後押しした。
■楽観的な見方はまだ早い
今週にはOPEC月報(13日)や国際エネルギー機関(IEA)の石油市場リポート(14日)の発表がそれぞれ予定される。フジトミの斎藤和彦チーフアナリストは「原油需要の見通しは依然として不透明で、この発表を以前のような材料にはできない。需要状況の悪化を示す内容が出てきても、急落とはいかないだろう」と、原油相場への影響は限られると分析する。
楽観的な見方はまだ早いとの指摘もある。ニッセイ基礎研究所の上野剛志シニアエコノミストは米国で原油貯蔵スペースの枯渇は依然として続いていると指摘し、「短期的なスパンでみた際、30ドルの節目を超え、40ドルを目指すような動きには至らないだろう」と冷静な見解を示す。
■「マイナス価格に落ち込むことはない」
原油相場で注目されるのは19日の期近6月物の最終売買日だ。原油先物で運用する米上場投資信託(ETF)の一部の運用会社は期近6月物を4月下旬に全て売却している。上野氏は「5月物の限月交代でみられたようなETFの投げ売りは小規模になるため、マイナス価格に落ち込むことはない」と語る。
それでも期近6月物を現在も保有する全ての投資家が、原油の貯蔵スペースを確保しているわけではない。上野氏は現物引き渡しを拒む投資家による「投げ売り」はある程度は生じると予測する。投げ売りによる相場急落には依然として警戒するべきだろう。
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