日経QUICKニュース(NQN)=井田正利
世界の金融市場で積極的に運用リスクを取る「リスクオン」の動きが足元で広がる中でイタリア国債が買われている。18日にドイツとフランスが欧州連合(EU)として復興基金を設立する案を発表。投資家心理が改善して相対的に安全とされる債券が売られドイツやフランスの長期金利は上昇した一方、イタリアの長期金利は大きく低下した。イタリア財政への警戒感があり、リスク選好局面で買われやすいイタリア国債にとって「EU復興基金」は買い材料になった。
■EUによる復興基金案は5000億ユーロ
金融仲介のICAPによると、18日の欧州債券市場でイタリア長期金利の指標となるイタリア10年債利回りは1.7%近辺と、前週末から0.2%程度低下(価格は上昇)した。ドイツやフランス、オランダの10年債利回りは前週末比で上昇しており、イタリア債に買いが集まった構図がみてとれる。
ドイツとフランスが発表したEUによる復興基金案は5000億ユーロ(約59兆円)の規模にのぼる。基金の設立が実現すれば新型コロナウイルスの拡大で停滞が続く欧州経済を支えることにつながるため、安全な資産とされる債券は売られやすいはずだ。ただイタリアの場合は「将来的な財政悪化へのリスクが軽減され、むしろ金利低下につながった」(SMBC日興証券の奥村任氏)という。
■国債増発懸念が低下
イタリアでは欧州でいち早く新型コロナが流行し、ロックダウン(都市封鎖)措置を導入したことで経済は甚大な打撃を受けた。感染拡大を受けてイタリア政府は3月と5月に相次いで経済対策を発表し、総額は800億ユーロ規模となっている。
イタリアはもともと財政基盤が脆弱で、市場では国債がさらに増発されることで債券需給が緩み、金利が一段と上昇するのではとの警戒感が広がっていた。SMBC日興の奥村氏は「復興基金によって共同で資金調達できれば全てを国債でまかなう必要がなくなる。イタリア財政への警戒感が弱まり、金利が低下した」と指摘する。
今後もイタリアの長期金利には低下圧力がかかりそうだ。イタリア政府は5月から感染拡大防止のための規制を段階的に緩めており、6月3日には人の移動制限も解除する。「経済活動の再開が続けば税収が増え、財政悪化への懸念は一段と和らぐ」(野村証券の岸田英樹氏)。岸田氏はイタリアの長期金利が20年中に1.2~1.3%まで低下する場面もあるとみる。
■イタリア国債の買い続く
リーマン・ショック後の債務危機を経て、欧州では財政的に豊かで信用力もある北部欧州と、財政基盤が脆弱な南欧の間に対立構造が存在する。ただ野村の岸田氏は「新型コロナの拡大は不可抗力であるため、EU諸国や欧州中央銀行(ECB)がイタリアを見捨てるとは考えにくい」とも話す。EU諸国との協調が進展すれば、イタリア債にも引き続き買いが入りそうだ。
もっとも、イタリア国内で感染が再び拡大すれば、経済活動の制限強化やさらなる経済対策が必要となり、イタリアの財政懸念が再燃しかねない。経済活動の再開が感染「第2波」につながりはしないか、市場関係者の目線はイタリアの先行きに集まっている。