QUICK Market Eyes=山口正仁
大手自動車メーカーを巡り材料が相次いでいる。20日に米格付け会社のS&Pグローバル・レーティングスは、トヨタ自動車(7203)の長期債格付けを「シングルAプラス」に、本田技研工業(ホンダ、7267)の長期債格付けを「シングルAマイナス」に、それぞれ1段階引き下げた。
新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な自動車販売の急減を受け、今後1~2年にわたり両社の収益性に非常に強い下押し圧力がかかると考えている。電動化や自動運転への対応に備えた高水準の開発費用が継続すると見込まれ、収益性が早期に従来の格付けに見合う水準まで回復する可能性は低いと判断している。新型コロナの収束時期、生産活動や営業活動、消費者の動向などへの影響については、現段階では一定の仮説に基づいて想定せざるを得ないが、自動車市場の回復についての慎重な見方は「コロナ後」への楽観論に疑問符を投げかける。
■トヨタ、村田製作所の決算説明資料から
トヨタが5月12日に開示した決算説明資料を振り返ってみたい。トヨタは2021年3月期連結決算(国際会計基準)の通期見通しで、営業利益が前期比80%減の5000億円を見込むとの予想を示した。前提となる連結ベースでの自動車販売台数は前年度に比べ約22%減の700万台を想定した(図1)。
トヨタの決算発表のおよそ半月前にあたる4月30日に決算発表した村田製作所(6981)は21年3月期連結決算の業績予想にあたって示した部品需要予測で、自動車については自動車メーカーの減産や消費者の買い控えにより、前年比で2割減を見込むとの見方を示していた(図2)。
■「公表した意味合いは小さくない」
SMBC日興証券は12日付リポートで、トヨタがガイダンスを発表する可能性が低いと市場で推測されていたなかで、業績予想および販売台数前提が公表されたことはサプライズと指摘。特に販売台数の動きについて、4~6月期は前年同期比4割減、7~9月期は同2割減、10~12月期は同1割減、その後は前年同期並みに戻る、との前提に基づいて予測していると一定の見方を示した点は素直に評価すべきとし、公表した意味合いは小さくないと評していた。
野村証券では15日付リポートで、トヨタは連結販売台数を前期比22%減の700万台とみるが、欧州や豪州での市場シェアの上昇や中国向け輸出の回復を考慮して同証券予想では同12%減の784万台を見込むとしている。
21日早朝配信のNHKニュースは、日産自動車(7201)が28日に公表を予定している新たな中期経営計画で、3年後の2023年度の年間の目標販売台数を500万台程度とし、22年度に600万台としてきた従来の計画から大幅に引き下げる方向で調整を進めていると報じた。拡大路線からの転換を明確にし、実態にあった計画に基づいて収益力の回復を優先させたいとし、世界で720万台あった生産能力も削減すると伝えている。新型コロナの感染拡大の影響による厳しい事業環境に対する各社の戦略へ市場の熱い視線が注がれる。
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