小池百合子都知事が「withコロナ宣言」を行うなど、新型コロナウイルスの脅威が中長期化すると予想されるなか、電子契約への関心は急速に高まっている。テレワーク推進でボトルネックになっているのが紙とハンコを必要とする日本式の実務スタイルだろう。アドビの調査によれば6割強のビジネスパーソンが「テレワーク中に紙書類や捺印の対応で出社した経験がある」という。ただ、足元で政府の後押し、IT大手や金融業界などで電子化の動きが出ており、今後関連市場が急速に拡大する可能性が高そうだ。
■金融業界でも脱ハンコ
電子化移行による一般的なメリットとしては、◇コストを削減できること、◇契約状況を一元管理できること、◇データのバックアップ・管理が容易になること――などが挙げられよう。印紙税・郵送費が不要となり、印刷・製本・送付・保管といった事務作業が不要になる。また、締結漏れや更新・解約の処理といった定期的な業務をシステムで管理しリマインドが可能となる。さらに、電子データのまま保存できるため、改ざんを防ぎ、バックアップが簡単にでき、過去の契約の検索も容易となる。
このようにメリットの多い電子契約だが、書面や押印を前提とする慣行が根強く残っていることが妨げとなった。そこにも変化が見られ始めている。安倍晋三首相は4月下旬の経済財政諮問会議で「対面・紙・ハンコ」の見直しを指示し、総務省は文書が改ざんされていないと証明する「タイムスタンプ」の事業者認定の運用開始を当初の2021年度から20年内に早め、電子的な社印「eシール」は22年度から1年の前倒しを目指すとしている。
ハンコ文化が根強かった金融取引でも、新型コロナ感染拡大を機に変化の動きが強まっているもよう。三井住友銀行が提供する融資の電子契約サービスは足元で利用件数が急拡大し、みずほ銀行でも新規の契約社数が急増しているという。政府の緊急事態宣言の解除後も、金融業界での脱ハンコの動きは止まらないようだ。
■電子印鑑ソリューションのGMOクラウド
IT業界で顕著な動きを見せているのは、GMOインターネットグループ(9449)だろう。新型コロナ感染拡大防止のため、1月末から在勤務体制へ移行。在宅勤務期間中に捺印手続きのために出社しなければならない事態が多いことを確認し、4月中旬にグループ内での印鑑手続きの完全廃止を決定。さらに、取引先企業へ電子契約の利用を要請するとした。これに伴い、グループ企業のGMOクラウド(3788)が手掛ける電子印鑑ソリューション「GMO電子印鑑Agree」のスタンダートプランを1年間無償で提供するとした。GMOに続き、メルカリ(4385)、LINE(3938)も押印の原則廃止を決め、IT業界では急速に電子化の流れが進んでいる。
■電子契約サービスの弁護士ドットコム
弁護士ドットコム(6027)は電子契約サービス「クラウドサイン」を手掛け、社数ベースで国内シェア8割を誇る。リモートワークを阻む押印作業から脱却する動きが広がり、4月の新規導入社数は前年同月比3倍に急増した。「クラウドサイン」事業の売上高は21年3月期に前期に比べて2倍近い規模を目指すとしている。今後も月次ベースの導入者数の動向を含めて注目を集めそうだ。(QUICK Market Eyes 本吉亮)