1~3月の法人企業統計(金融・保険業を除く)で全産業の経常利益は前年同期比で32%減と4四半期連続での大幅な落ち込みとなった。一方でソフトウェアを含む設備投資は同4.3%増と2四半期ぶりの増加となり、新型コロナウイルスにより足元の業績が落ち込む中において、将来を見据えた設備投資は堅調だったことは意外感をもって受け止められた。4~6月期にかけては悪化が見込まれるものの、リモート化やテレワーク、クラウド化、次世代通信規格「5G」といったコロナ後の新常態(ニューノーマル)に必要な技術やサービスを手掛けている企業の株価は強含んでいる。ただ、新型コロナの影響で先行きの業績見通しが難しく、今期の業績見通しを開示していない企業も数多い。
QUICKはSCRIPTS Asia社(米国シアトル)と提携し、日本及びアジアの上場企業による投資家向け説明会などのイベントの議事録を提供している。この議事録を基にテキストマイニングしたビジュアルで各企業の決算説明会を見ていくと、決算短信だけでは読み取れない先行きへの姿勢を読み解くことができる。
■日立、Lumada事業やITセクターのさらなる強化へ
例えば日立製作所(6501)が5月29日に開催した決算説明会をテキスト化したデータをもとにテキストマイニングしたところ、「IT」「キャッシュフロー」「Lumada」の文字が目立つ結果となった。
説明会で河村芳彦専務兼CFOは前期の決算について、新型コロナの影響で日立建機や金属などの上場子会社は大幅減益となったものの、ITを中心とした主要5セクターは堅調に推移したとして社会インフラとITで稼ぐ事業ポートフォリオへのシフトが進んでいる点を強調。
今期については、1兆円を超える手元流動性の資金で財務は万全としながらも設備投資の見通しや資産売却の推進でキャッシュフローのマネジメントを進めてさらに守りを固める。
一方で攻めの戦略として新型コロナ後の社会で求められる新たなデジタル化の需要に対応するため、IoT(インターネット・オブ・シングズ)や人工知能によるデータ分析などの基盤を提供するLumada事業やITセクターのさらなる強化に取り組む方針を示した。
日立はITによる社会イノベーション企業を掲げており、21年3月までに在宅勤務を標準とした働き方改革を進めるなどコロナ後の新常態(ニューノーマル)にいち早く対応出来る企業の一社と考えられる。株価は200日線(3840円処)を未だ下回っており、出遅れ感がある。
■リクルートHD、アナリストの関心はアフターコロナの事業環境
次に5月27日にリクルートホールディングス(6098)が開催した決算説明会の内容をテキストマイニングしたところ、「HRテクノロジー」「Indeed」「Airビジネスツールズ」の文字が目立つ結果となった。
峰岸真澄社長兼CEOは説明会の冒頭で同社の事業ポートフォリオは過去10年で日本国内の人材及び販促事業から、Indeedを中核に据えるグローバル事業体へと大きく飛躍したとコメント。Indeedは2012年に買収した米国の求人専門検索サイトで、その後に同社が海外M&Aによるグローバル路線へと転換する大きなきっかけとなった企業だ。Indeedが柱のHRテクノロジー事業の2020年3月期の売上収益は前期比3割増と大きく伸びている。
その後のアナリストとの質疑応答ではアフター・コロナの事業環境についての質問が多く見られた。新型コロナの影響は広告出稿や人材採用の手控えで当面は厳しい環境が続くとの見通しを示した。その上で海外ではHRテクノロジー事業、国内ではAirペイ、Airレジなど法人向け業務支援サービスのAirビジネスツールズに注力して、「人材マッチング市場におけるグローバルリーダーとなる」ための中長期戦略を再度強調した。
Airペイ、AirレジはSaasベースによるキャッシュレス決済システムでiPadまたはiPhoneとカードリーダー1台があれば手軽に導入できるため、政府によるキャッシュレス還元事業の後押しもあり、中小企業を中心に広がりを見せている。また、Airビジネスツールズには決済だけでなく集客支援や勤怠管理などの機能もあり、非接触・生産性向上といったニーズにより今後需要がさらに伸びると見られる。
リクルートHDの株価は5日線に沿ってゆるやかに上昇を続けているが、2月の年初来高値4615円を未だ約2割下回っており、過熱感はない。
■チェンジ、オンライン研修やふるさと納税サイトで増収増益を狙う
最後に5月21日にITによる課題解決のコンサルティングを手掛けるチェンジ(3962)が開催した決算説明会の内容をテキストマイニングしたところ、「オンライン」「DX」「ふるさと納税」の文字が目立つ結果となった。
説明会で福留大士代表取締役社長は新型コロナウイルスの影響で足元の1~3月期は集合研修やDX(デジタル技術による変革)の投資案件がほぼ延期や中止になったと厳しいマイナスのインパクトを示し、投資の見直しなどコロナ影響の長期戦に備える経営方針に切り替えていくと述べた。
同社は企業に対してはオンライン研修やリモート支援のパッケージの提供を行っている。また子会社のトラストバンクが運営するふるさと納税サイトを通じて全国の9割の自治体を顧客基盤としている。特別定額給付金の申請をめぐる混乱にもみられるように官公庁は今後のデジタル化による生産性向上の余地が大きく、チャットツール「LoGo」やDXのサポートなどで付加価値を提供し、守りを固めながら増収増益を狙っていく姿勢を明確にした。
株価は5月12日に2020年9月期の業績予想を上方修正したこともあり、リモートやテレワーク関連銘柄としても物色が続いており、2日に上場来高値5940円を付けた。短期的には利益確定売りも予想されるが、同社は人員を増強しさらなる需要増加に対応する方針で今後の業績の伸びが期待される。(QUICK Market Eyes 阿部哲太郎)